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「拘禁刑」の創設(10月掲載)

中部経済新聞令和4年10月掲載

愛知県弁護士会 弁護士 川本 一郎

 2022年6月13日、改正刑法が参議院本会議で可決され、成立しました。この改正刑法は、いくつかの重要な改正点を含みますが、今回は「拘禁刑」の創設について紹介します。拘禁刑とは、1904年に刑法が制定されて以来定められていた、「懲役刑」「禁錮刑」という2種類の自由刑が廃止され、新たに「拘禁刑」という1種類の自由刑に一本化されたものです。

 これまでの「懲役刑」と「禁錮刑」がどういうものであったか、かんたんに説明しますと、まず「禁錮刑」とは、受刑者をただ刑務所に入れ、自由を制限する刑罰であり、「懲役刑」とは、刑務所に入れた上で、加えて所定の刑務作業を義務として課すという刑罰です。刑法上は、禁錮刑よりも、刑務作業を課される懲役刑のほうが重いとされていましたが、むしろ何もしないでいるほうが苦痛であるという受刑者も多く、実際にも、禁錮刑でも申し出れば刑務作業を行うことができたのですが、8割以上の禁錮刑受刑者が申し出により刑務作業を行っていました。また、懲役刑での刑務作業は、もともとはその刑の名のとおり「懲らしめ」のために作業の義務を課すという意味ですが、近時は、単なる作業だけでなく、各種の指導や職業訓練なども取り入れられつつありました。

 今回創設された「拘禁刑」は、受刑者を刑事施設(刑務所)に拘置し、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、または必要な指導を行うことができる、というものです。作業を課すという意味では、これまでの「懲役刑」と似ていますし、それでは「懲役刑」に一本化し、刑の名前を変えただけではないかと思われるかもしれませんが、あえて「懲役刑」を廃止し、新たに「拘禁刑」を創設した意義は、課せられる作業を「懲らしめ」としての罰から、受刑者の改善更生・社会復帰のための措置という指向が明らかにされたことにあると考えられます。そのためには、これまでの与えられる刑務作業から、受刑者の自発性・自立性を尊重し働きかけていく運用が求められます。

 受刑者の多くは、いずれ刑期を終え、社会に復帰してくる人たちです。その時、受刑者の社会復帰がうまくいけば、受刑者本人にとってもよいことですし、社会にとっても、受刑者が新たな再犯を犯すことなく、むしろひとりの社会構成員として、ふたたび経済活動に従事し社会に貢献できるとすれば、大きなメリットのはずです。受刑者の改善更生・社会復帰を支えることは、再犯防止の観点からも重要です。

 なお、改正刑法の施行は、3年後の2025年からとされています。具体的な「拘禁刑」の運用が定まっていくのはこれからなのです。今後も、受刑者の自発性・自立性を尊重した改善更生・社会復帰のための措置という意義が見失われることのないよう、さらに注視していくことが必要です。