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医療通訳制度に関する調査研究報告について

会報「SOPHIA」令和5年5月号より

人権擁護委員会 医療部会 部会長
大 辻 美 玲

 人権擁護委員会医療部会は、令和3年度から令和4年度にかけて愛知県における医療通訳制度について調査研究を行い、標記の報告書にまとめましたので、ご紹介します。

1 調査の意義・目的

 日本の在留外国人は296万人(2020年)、訪日外国人は3188万人(2019年)であり、このような外国人人口の増加に伴い、日本語能力が十分でない外国人患者が医療機関を受診する機会も増えています。医療を受ける場面では、言語がコミュニケーションの重要な役割を担いますが、医療に関する用語は日常生活用語と必ずしも同じではなく、医療に関する制度も多様で複雑です。国際人権規約の批准国である我が国に滞在中の外国人患者が、日本語能力が十分でないために適切な医療を受けられないという事態は、何としても回避しなければなりません。
 愛知県では、2012年から「あいち医療通訳システム」(以下「本システム」)という制度が運用されています。本システムは、愛知県および県内市町村ならびに愛知県医師会等の8団体が設立した「あいち医療通訳システム推進協議会」により運営され、県内の登録医療機関に対して、通訳派遣、電話通訳、文書翻訳という通訳サービスを提供しています。
 そこで当部会は、本システムの運用および利用状況を調査した上で、課題について研究を行いました。

2 調査の概要

 調査概要は次の(1)~(7)のとおりです。
 (1)あいち医療通訳システム推進協議会事務局(愛知県)、本システム運営会社との面談(本システムの運用実態や課題に関する意見交換)、(2)5つの登録医療機関との面談または文書による照会(本システム利用状況および課題に関する意見聴取)、(3)県内150床以上の医療機関に対するアンケート調査(日頃の通訳手段、本システム利用の有無等に関するアンケート)、(4)医療通訳者(兼医療従事者)との面談(医療通訳の実態、課題等に関する意見聴取)、(5)外国人患者からの意見聴取、(6)愛知県外で外国人医療に注力している私立医療機関との面談(医療通訳に関する課題等の意見聴取)、(7)厚労省、東京都等の医療通訳制度に関するインターネット検索

3 調査の結果と課題

 医療通訳は本来、医療専門用語の理解に留まらず、患者の母国の医療制度や文化的背景、日本の医療制度等に関する知識を備えつつ中立性や守秘義務等に配慮した通訳が求められることから、高度な技術を要します。しかし、医療通訳が必要な場面は様々であるため、専門職による対面通訳に限らず、遠隔通訳(電話や映像を用いた通訳)、通訳デバイス等の各種通訳手段の特性と費用を勘案して、最適な通訳手段を選択する必要があります。本システムは、対面通訳(通訳派遣)において特に重要な役割を担っていますが、課題として、緊急時に利用できないことや、通訳者の登録人数不足、経済的待遇の悪さ等が挙げられました。また、多くの医療機関が患者の家族や知人の通訳に頼りつつ、特に支障を感じていないなど、医療通訳の意義が十分に理解されていない実態も明らかになりました。
 本報告書では、本システムにおける緊急時の通訳手段として、遠隔通訳サービスの早急な整備(電話通訳サービスにおける対応言語の拡充、映像通訳システムの導入)の必要性を指摘したほか、場面に応じた適切な通訳手段を選択できるよう、利用機会の多い言語の通訳者の雇用、翻訳デバイスの提供等を含む各種サービスの充実、通訳者の経済的待遇改善の必要性について述べ、特に費用負担が問題となる場面では、国や自治体による積極的な財政出動が不可欠であるとしています。
 本報告書は、厚労省や都道府県等の関係団体に配付し、当会HPにも掲載する予定です。