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ベトナム弁護士連合会の本邦研修の受入れ

会報「SOPHIA」令和5年7月号より

国際委員会 委員

JICAベトナム法整備・執行の質及び効率性向上プロジェクト長期専門家兼国際協力専門員 塚 原 正 典

【本邦研修とは】

 本邦研修とは、独立行政法人国際協力機構(以下、「JICA」)が協力対象国(開発途上国)ごとの課題についての要請に基づき、日本にて実施する研修である。ベトナムにて現在実施されている「法整備・執行の質及び効率性向上プロジェクト」(以下、「現プロジェクト」。なお、ベトナムで1996年に初めて開始された法整備に関するプロジェクトから現プロジェクトまでを総称して「法整備プロジェクト」という)では、対象機関の一つにベトナム弁護士連合会(英語ではVietnam Bar Federationと表記されるので以下、「VBF」)があり、日本弁護士連合会を受託機関としてVBFに対する本邦研修が6月26日から7月3日まで実施された。研修団の構成は、VBF副会長及びハノイ市弁護士会会長のダオ・ゴック・チュエン弁護士を団長とし、その他地方の各省の弁護士会会長を含む総勢12名である。今回の研修の主要なテーマは、弁護士連合会・弁護士会の広報、弁護士会・弁護士業務へのデジタルトランスフォーメーション(以下、「DX」)の導入である。研修中の6月28日及び29日に研修団は当会を訪問し、各講義等に参加した(詳細は後述)。
 なお、執筆者は現プロジェクトの長期専門家として同国にJICAから派遣されているが、本稿で意見にわたるものは全て執筆者個人の見解であり、JICAの見解ではない。

【ベトナムの弁護士事情】

 前提として、ベトナムの弁護士事情に簡単に触れておく。現時点でベトナムの人口約1億人に対して弁護士数は約1万8000人である。ベトナムには58の省と5つの中央直轄市があり、それら全てに弁護士会がある。それらをまとめる連合会としてVBFがある。
 現行のベトナム弁護士法6条(以下、引用する法令はベトナムの現行法令である)に基づき弁護士は司法省の監督を受けることを前提としている。ベトナムでは弁護士、裁判官、検察官になるための過程はそれぞれ別個のものとなっており、日本のような「法曹三者」という概念はないと思われる。弁護士の社会的地位は、裁判官、検察官のみならず一般の公務員に比しても低いと思われるのが現実である。刑事訴訟において弁護人(弁護士に独占されていない。刑事訴訟法72条2項)が必須となる場合は多くなく(刑事訴訟法76条)、家事事件についても弁護士への依頼は多くないと思われるなど、弁護士の業務領域も広がりは不十分とも考えられる。

【JICA法整備プロジェクトによるVBFとの協力と今回の本邦研修】

 2009年の設立以来、VBFはJICA法整備プロジェクトの協力対象機関である。憲法第4条が「ベトナム共産党は~国家と社会の指導勢力である」と明言しているなど、日本とは異なる政治体制ではあるが、「ベトナム社会主義法治国家」という概念の下に、人権の尊重
・保護等を目標の一つに掲げている(詳細は2022年11月9日付の「共産党中央執行委員会決議27-NQ/TW」)。その実現には在野の法律専門家である弁護士、弁護士会及び弁護士連合会の能力や役割の向上が不可欠という観点から、上記の継続的協力には大きな意義があるというのが私見である。この協力の一環として本邦研修があるところ、コロナ禍が一段落した今年度は3年ぶりに実施ができた。

【当会における本邦研修】

 当会にて6月28日に実施された研修内容は以下のとおりである。
・講義:愛知県弁護士会の概要
 当会副会長の阪野公夫会員から当会の歴史、本会と支部、当会の活動と収支の状況を詳細にご説明いただいた。ベトナムの地方の省では、収入不足(なお、現時点でVBF会費は約600円/月、各弁護士会費は約900円/月)により弁護士会の事務所がないこともあるため、グーグルマップで確認した立派な外観の支部の建物や、当会全体の収支の状況を確認して研修団からは感嘆の声が上がった。
・講義:当会の事務局の活動と人事制度
 当会の梶田晋副会長から、事務局の構成や活動、人事制度につき詳細にご説明をいただいた。VBFには、現時点では約20名しか職員がいないが、今後の弁護士増員に伴う規模拡大の際の参考として有益であるとの感想が研修団員から聞かれた。
・当会執行部への表敬訪問
 研修団員が、当会の小川淳会長、梶田晋、阪野公夫、竹内千賀子各副会長と面会をして、研修の意義・目的の説明及びこれまでの日本の協力並びに本研修受入れについて感謝が述べられた。これに対して小川淳会員から最大限の歓迎の言葉及び今後の日越弁護士の協力発展への期待などが示された。

ベトナム弁護士連合会.JPG
(表敬訪問時の記念撮影)

 29日には、以下の講義が行われた。
・講義:当会の会員管理におけるDX
 庄司俊哉会員及び事務局の倉地潤職員から、当会の会員管理システム構築と改善の過程等に関する詳細な説明を受けた。ベトナムではDX導入が国家的目標とされている(2020年6月3日付の「2030年を見据えた2025年までの国家DXプログラムについての首相決定749/Q-TTg」)ことを背景に、VBFでは、各地方弁護士会との統合を前提とした会員管理システム構築を計画しており、システム統合の長所短所についてなどの質問が相次いだ。
・講義:当会におけるリーガルテック部会の活動
 久野実会員から当会の弁護士業務改革委員会リーガルテック部会の活動を紹介していただきつつ、主に弁護士業務へのDX導入の現状・可能性その他について詳細なご説明をいただいた。VBFは上述の首相決定を意識して、弁護士会及び弁護士業務にDXを導入した業務改革実現を目標としている。VBFや多くの地方弁護士会では、IT関連の設備、職員が乏しいのが現状と思われるが、日本の状況を踏まえて、今後のDX導入について検討する良い機会になったと思われる。
・当会の広報戦略及び活動
 近藤雅樹会員より、当会の広報の実績、それを踏まえた広報戦略、効果的広報のための留意点等につき講義を受けた。内容は極めて詳細であり、弁護士の社会的地位向上のための効果的広報を模索しているVBFにとって非常に興味深い内容であった。東京への移動のため、質疑を含めた講義時間を延長できなかったのが残念である。

【最後に】

 28日には、参加者総勢40名弱で当会主催の懇親会も開催された。ベトナム流の掛け声で酒食を楽しみながらの交流は非常に楽しい時間であった。
 現在では、ベトナムに進出する中部地方の企業が多いだけでなく、訪日・在住するベトナム人も多くなっている。これらの状況に応えるべく、今後も日越弁護士の交流継続と協力の発展を期待したい。