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憲法週間記念行事
それでも僕はあきらめない
~周防正行と考える司法の未来~
憲法週間記念行事
それでも僕はあきらめない
~周防正行と考える司法の未来~
会報「SOPHIA」令和5年7月号より
第1部
刑事弁護委員会 委員 永 井 康 之
6月17日(土)、伏見ライフプラザの鯱城ホールにおいて、オンライン配信を併用する方式で、憲法週間記念行事を開催した。
本年度は、映画監督の周防正行さんをお招きし、対談とパネルディスカッションを行った。第1部の対談では、当会の舟戸佐輝子会員が刑事司法に関する話を伺った。
1 それでもボクはやってない
周防監督が「それでもボクはやってない」という映画を作ったきっかけは、高裁で逆転無罪となった痴漢えん罪事件の記事だった。取材をはじめる前、周防監督は警察が調べた全ての証拠をもとに裁判が行われていると考えていた。しかし、取材をしてみて自分が刑事裁判について全く知らないことに気がついた。それで刑事手続をテーマに映画を作った。
映画制作を通じて、刑事手続には、犯罪を否認すると勾留が続く人質司法の問題、弁護士や裁判官は検察官が有罪立証に必要だと考えた証拠しか見られない証拠開示の問題、検察官が取調室で書いた調書に基づいて裁判される調書裁判の問題があると感じた。
2 法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」委員
法制審議会の委員にと声がかかったとき、戸惑う周防監督に声をかけた弁護士は「取材するつもりで引き受けてみたらどうですか?」と言った。人質司法、証拠開示、調書裁判の問題を問いかけてみようと思って引き受けた。このうち、問題意識を共有できたのは調書裁判だけだった。
人質司法については「人質司法と言われるような事実はない」と言われた。非常にショックだった。カルロス・ゴーンさんの事件で人質司法という言葉が広く知られるようになった今なら、どういう議論になるだろうか。
証拠開示については学者の委員から「そんなに全ての証拠が見たいなら戦前の職権主義にすればよい」との話があった。
取調べの録音録画は、対象がごく一部の事件になってしまった。しかし、これが第一歩となって、対象事件が広がっていくのであればということで賛成した。
現在、制度の見直しについて検討する協議会が開かれている。仮に見直しが決まっても、その後に法制審議会での議論が必要で、対象事件はなかなか広がらない。
3 再審法改正をめざす市民の会共同代表
証拠開示を訴える中で、判決が確定し、事件から相当な期間が経過した再審事件であれば証拠開示をすることの不都合がないだろうと考えた。それで、再審法改正をめざす市民の会の共同代表になった。
再審開始決定が出ても、検察官が上訴してなかなか再審が行われない問題がある。
4 まとめ
綿密な取材と映画の制作、それに法制審議会の委員としての経験に裏打ちされた周防監督のお話は非常にわかりやすかった。引き続き司法の現状を多くの方に知って頂く機会を作っていきたい。
第2部
広報委員会 記念行事部会 チーム員 山 本 駿 介
1 はじめに
引き続き、6月17日(土)に開催された憲法週間記念行事のご紹介をいたします。本年度は映画監督の周防正行さんをお招きし、第1部では、舟戸佐輝子会員を対談者として、周防さんに刑事司法に関するお話を聞かせてもらいました。
第2部は、パネルディスカッション方式で行われました。コーディネーターは中山裕徳会員、パネリストは周防さんのほか、第1部に引き続いて舟戸佐輝子会員、そして松隈知栄子会員です。
第1部では刑事司法の問題点に焦点を当てて掘り下げた話を聞かせてもらいましたが、第2部では視野を広げ、周防さんに映画の話を語ってもらう中で、その価値観や着眼点が司法や弁護士業にも通ずるものであることがわかりました。
2 パネルディスカッション
周防さんは、映画の取材や撮影に際して、"最初の驚き"を大事にしているそうです。曰く、未知の分野を題材とするとき、取材を重ねるごとに、自分自身はその業界に詳しくなっていくのだけれど、観客はその映画で初めて業界に触れるのだから、そのままの意識で映画を作ってしまっては観客の感性とズレが生じてしまう、だから初めて業界慣行を知ったときの驚きを忘れないようにしている、とのことでした。周防さんのこうした意識が、法制審議会や再審法改正に市民感覚の反映をもたらしているのだなと感じました。
この話を受けて、松隈会員からも、法律相談に当たっては素朴な気持ちで相談者の話に耳を傾けることを心掛けている、専門家としての先入観はひとまず追いやって、相談者の生の話を聞くことが肝要だ、と弁護士業にも根底を同じくする価値観であることが指摘されました。
そのほかにも、あの有名俳優のキャスティングに関する裏話が飛び出すなど、周防さんの臨場感あふれるお話に会場中が釘付けとなっていました。
また、映画の話にとどまらず、周防さんの近時の関心ごととして、里子の問題や同性婚の問題等、幅広い社会問題にも話は及びました。法制度の在り方について、実社会との距離感が問題となることの言及があるなど、第1部に引き続き、示唆に満ちたパネルディスカッションとなりました。
3 まとめ
これ以外にも多くの裏話が語られましたが、紙幅の関係上、残念ながらそのすべてを紹介することはできません。この記事を読んで興味を持った方は、ぜひ次回以降の記念行事に足を運んでいただければと思います。11月12日(日)の法の日週間記念行事では、中区役所ホールにて、なんとサッカー選手で元日本代表監督でもあるジーコ氏をお招きする予定です。奮ってご参加ください。