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生徒指導提要の改訂と生徒の校則自主制定権の可能性
-子ども基本法制の形成と学校懲戒法制の見直しを通して-

学校に関する諸問題研修
生徒指導提要の改訂と生徒の校則自主制定権の可能性
-子ども基本法制の形成と学校懲戒法制の見直しを通して-

会報「SOPHIA」令和5年7月号より

日時 6月5日 15:00~17:00
場所 弁護士会館5階ホール(Zoom併用)
講師 喜多 明人 名誉教授(早稲田大学)

子どもの権利委員会 委員 改 崎 龍 治

1 はじめに

 今回の学校に関する諸問題研修は、早稲田大学名誉教授の喜多明人氏を講師にお招きし、表題のテーマについてご講演いただきました。

2 こども基本法成立と生徒指導提要の改訂

 令和4年12月、12年ぶりに生徒指導提要が改訂されました(以下、「新提要」)。この改訂は、子どもの意見表明権や参画への権利、子どもの最善の利益の原則等を規定したこども基本法の成立が影響を与えており、こども基本法及び子どもの権利条約に依拠した生徒指導原理への転換及び生徒の校則自主制定権の可能性が示されたことに意義があります。

3 新提要の特徴

①教師の意識改革
 子どもの権利条約の4原則(差別の禁止、子どもの最善の利益、生命、生存及び発達に対する権利、意見表明権)及びこども基本法への教職員の理解が不可欠であると明記されました。子どもは未熟、発達途上で、指導しなければ成長できない存在であると考えられてきましたが、子どもは自己の意思と力をもって成長し、学んでいく力のある存在です。子どもをそのような存在として捉え、いかに子どもの中の自己形成力を引き出し、支えるかという教師の意識改革が求められます。
②教育方法改革
 「不適切な指導」が「決して許されないこと」及び不適切な指導と考えられる例(大声で怒鳴るなどの威圧的・感情的な言動での指導等)が明記されました。たとえ指導の目的や内容が正当であったとしても方法が不当であれば、それは子どもの人権を侵害することになりかねないため、指導方法の改革が求められます。
③学校運営改革
 学校運営への生徒参加、特に校則見直しへの児童生徒の参画の意義が明記されました。
 これにより、生徒の人権を不当に制約する校則については、生徒の参画を得ながら見直していくことが求められます。

4 校則自主制定権の可能性

 子どもの自己決定権や参画の権利からは、生徒の校則自主制定権・生徒の自治が導かれますが、これが日本で実現しない大きな2つの理由として、校長の校則制定権(学校の裁量権)と教師の懲戒権が挙げられ、新提要でも校則は「校長により制定されるもの」と明記されています。
 しかし、子どもの生活の中心である学校でこそ子どもの最善の利益を起点として子どもの利益・意思を重視すべきであるといえます。
 また、教師による懲戒的指導に代わり、生徒自身が自分達の生活を自分達で律することができる自主規律型の生徒による自治を発展させることができるような方法を模索していくことも重要です。 
 これらの実現のために必要なのは、子どもの力を信頼して任せることであり、そのために教師の意識改革と教育方法の改革を行わなければ、学校改革・教育改革が形骸化してしまいます。

5 最後に

 こども基本法や生徒指導提要の改訂、校則の問題について外国の学校の例等も挙げていただき、丁寧で分かりやすく、大変勉強になりました。