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海外展開にあたっては契約書の整備を忘れずに

中部経済新聞令和5年5月掲載

愛知県弁護士会 和田圭介

 海外展開(海外への進出・海外との取引)を進める日本企業は枚挙に暇がありませんが、苦労している日本企業も少なくありません。海外展開の際のリスクを低減するために、取引条件を固める段階から契約書を作成していくことを勧めます。

 国内では、契約書を作成していなくても、トラブルなく事業を運営できている会社もあり、そのような感覚で海外展開を進めると痛い目にあう場合が多いです。これは、国内の取引先は信用できる取引先の選別ができているのに対して、海外展開(特に初期)では、玉石混合の相手方と付き合っていく必要があるからだと思われます。また、国内の場合には、契約書を作成しなくても、日本の民法・商法・商慣習等のデフォルトルールに従うため、取引における一定の共通ルールが存在します。しかしながら、国際取引の際には、どのようなルールに従うのか自体が明らかではありません。例えば、契約書がないことにより民法・商法に従うとなっても、日本の民法・商法に従うのか、相手方の国や進出国のそれに従うかが明らかではありません。このため、契約書を作成することで取引のための共通ルールを設定することが重要となります。

 また、取引の初期段階から、お互いの主張・理解を書面化することにより、理解の食い違いを減らすことができますし、また、話し合っておかなければならない争点を事前に明確化することができます。これにより取引が開始した後に相互の認識のズレが発生するということを減らすことができ、紛争の芽を摘むことができます。

 国内で取引条件を決める場合には、商談で概要が詰まった後、契約書のひな型を(若干修正して)締結することが多いように思います。しかしながら、海外企業との取引を進める場合には、商談の結果を踏まえて、契約書を適時に改訂しながら、テーラーメードの契約条件を作り込んでいく方式が望ましいです。

 国内取引では、まずは取引を始めてから、後は協議しながら決めていくという進め方が多いかもしれません。国際取引においても同じようにせざるを得ない場合もあるかとは思いますが、それでもできるだけ色々なシナリオについて協議し、合意できた事項を契約書に盛り込んでおくことが望ましいです。このように協議をしていく中でお互いの認識が深まりますし、将来起こりうる様々なリスクの配分を行うことができます。

 この取引条件を決める際に最も重要な原則は、支払いを受ける側であれば、できるだけ早いタイミングで多くの金額を回収することです。また、商品やサービスを提供する側であれば、相手方から求められている製品・サービスの水準・内容について適切に(オーバースペックにならないように)合意したうえで、できるだけ自社の責任を適切な範囲に限定することが重要なポイントとなります。

 契約書を作成することは、海外展開のリスクを減らし、また、よりよい取引条件を勝ち取るための戦術となります。このような戦術を駆使して日本企業がもっと世界中で活躍できるように愛知県弁護士会では、国際取引に対応をできる弁護士を育成しております。