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ろう通訳を知っていますか

会報「SOPHIA」令和5年4月号より

高齢者・障害者総合支援センター運営委員会 委員 原   秀  一

1 はじめに

 3月1日、「ろう通訳」をテーマに、手話通訳人研修が開催されました。自ら聴覚障害を有し、ろう通訳人として活躍する武田太一氏を講師にお招きし、研修の前半は、手話とは何か、手話通訳とは何か、ろう通訳とは何かについて、ご講演いただきました。講演は手話で行い、音声通訳をつけました。後半は、ろう通訳のロールプレイを行いました。

2 手話とは何か

 手話は、日本語とは別言語として認識すべきです。手話と日本語では、言語としての構造が異なり、手話は日本語と異なる文法を持っています。手話は、手の動きに文法があることはもちろん、手指以外にも、顔、肩、表情、眉等の動きにも文法があります。生まれた頃から手話を主言語として用い、手話を母語とする人もいます。
 手話を一つの言語として認めたものとして、手話言語条例を定めている自治体が多数ありますが、まだ社会での認知度は低いようです。

3 手話通訳とは

 通訳では、単語を別言語の単語に置き換えるだけでは足りず、相手に通じる言葉に組み直す必要がありますが、そのためには、それぞれの言語の背景にある文化を知ることが必要とのことです。例えば、日本語では、誰かが亡くなった際、「不幸があった」と表現するが、手話では「死」という直接的な表現を用いるため、そのまま「不幸」と訳すと通じません。これは、手話という言語の背景にある文化を知らなければ、訳することが困難な例です。
 また、日本語はハイコンテクスト文化(空気を読む文化)である一方、手話はローコンテクスト文化(言葉で伝え合う文化)であるため、曖昧な表現の日本語をそのまま手話で通訳すると、手話を母語とするろう者には正確な内容が伝わりません。このような違いを、通訳は瞬時に言葉を選んで表す必要がありますが、日本語を母語とする通訳人が、手話を母語とするろうの文化を全て把握することは、困難です。

4 ろう通訳

 そこで、ろう者が通訳人として通訳を行う、ろう通訳が効果を発揮します。ろう通訳では、聴者の言葉を聴者の通訳人が手話で表現し、ろう者の通訳人が聴者の通訳人の手話を、ろう者に伝わる手話に置き換えて伝える方法です。一度の通訳で、2名の手話通訳人が必要ですが、日本語と手話の双方につき、背景にある文化を踏まえたより正確な手話通訳が実現します。もっとも、現行制度ではろう者が手話通訳の資格を得ることができず、ろう通訳は制度として確立していません。

5 ロールプレイ

 ロールプレイでは、外国人ろう者と手話ができる日本の聴者との会話をろう通訳人が通訳する場面と、ろう者と聴者の会話を聴者の通訳人とろう者の通訳人が医療場面を想定してろう通訳する場面を実演しました。ろう通訳では、聴者とろう者が向き合って座り、聴者の隣にろう者の通訳人が、ろう者の隣に聴者の通訳人が配置され、ろう者の通訳人はろう者と聴者の通訳人、聴者の通訳人は聴者とろう者の通訳人とそれぞれ向き合って通訳を行いました。

6 おわりに

 改めて、通訳事件の難しさを実感しました。これから、情報保障制度が拡充されることを願います。