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中弁連定期大会シンポジウム 罪に問われた人たちの社会復帰支援~弁護士の積極的な関与と多職種・多機関連携~

会報「SOPHIA」 令和4年11月号より

中弁連定期大会シンポジウム実行委員会 委員
よりそい弁護士制度運営委員会 委員

伊藤 香

1 はじめに

 10月21日午前、金沢市の「石川県立音楽堂 邦楽ホール」において、中弁連定期大会シンポジウムが開催されました。

2 基調講演1

 まず、辻川圭乃弁護士(大阪)から、「罪に問われた障がい者等への弁護士による切れ目のない支援とは」と題した基調講演が行われました。

 辻川弁護士がまず挙げられたのは、「気づきの必要性」です。

 講演の中で紹介された事例の被疑者は、一見すると障がい等の存在が感じられなかったそうです。しかし、辻川弁護士は、被疑者の「人となり」と犯行形態との落差に違和感を覚え、勾留請求前に申入書を提出し、「何らかの疾患や障がいの可能性がある」と裁判官に電話で伝えました。

 辻川弁護士の迅速かつ適切な対応で勾留請求は却下されたものの、検察官から準抗告がなされました。

 レジュメを読んでいて、辻川弁護士が指摘する「勾留の理由なし」とする事情と、検察官が主張する「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」との間には、同じ事件について述べているとは思えないほどの開きがあると私は感じました。辻川弁護士は、「検察官から見えている景色」という言い方をされていましたが、障がい等の存在に気づくことができなければ、私たちも同じ間違いを犯してしまう危険性があるとも思いました。

 準抗告も棄却されましたが、在宅事件となった後も辻川弁護士は、「合理的配慮の申入書」等を提出して、被疑者を支援しました。

 大阪弁護士会にも援助制度があるそうですが、当会にも「特定在宅被疑者弁護援助制度」がありますので、是非ご活用ください。

 辻川弁護士は、「障がい特性により十分に防御権を行使できない人たちにこそ、適正手続が担保されるよう弁護士が関わる必要がある」「社会に戻ってきた後も、障がい特性が理解されず、居場所が見つけられないまま犯罪を繰り返してしまう人が少なくない」といった点を指摘した上で、入口から出口まで、弁護士による「切れ目のない支援」が必要であると結ばれました。

3 基調講演2

 次に、菅原直美弁護士(東京)から、「治療的司法と更生支援」と題した基調講演が行われました。

 「治療的司法」は「therapeutic justice」の訳語であるという話や菅原弁護士の説明から、私は、事件の背景にある問題を解決するために必要であれば、医療的支援に限らず支援活動を行っていくことが「治療的司法」の実践であるというイメージを持ちました。

 菅原弁護士は、執行猶予期間中に薬物の自己使用で自首をした被告人の事案で、再度の執行猶予を目指し、「(刑事)施設内処遇ではなく、社会内処遇とすべき」ということを主張・立証しました。具体的には、回復支援施設内での様子をDVD化して証拠として提出し、施設内で生き生きと過ごす被告人の様子を見せたり、治療を経て学びを得た被告人の姿を被告人質問で見せたりしました。そして、施設の職員等を傍聴席に呼び、社会内にこそ支援者がいて被告人の居場所があるのだということを裁判官にアピールしました。結果、被告人には、保護観察付きの執行猶予判決が言い渡されました。

 また、窃盗での実刑を繰り返し、前刑の入所時につながっていた施設と受刑中に連絡が途絶えてしまい、出所後、また窃盗で逮捕されてしまった被告人の事案も紹介されました。

 通常、前回の裁判で情状証人を務めた人が再び情状証人となることは、説得力を欠くため避けた方が良いとされています。しかし、前回うまくつながらなかった施設側も、「是非リベンジしたい」と協力的だったため、菅原弁護士は再度の情状証人をお願いしました。実刑となった後も、菅原弁護士が3年ほど手紙のやり取りを続け、出所時の調整も行い、無事に再度の情状証人を務めた施設とつながることができました。

 「弁護人」として求められている役割との関係について、菅原弁護士は、「裁判は生き直しの場所でもあり、問題解決が求められている。我々弁護士は、問題解決を担う専門職である。弁護士法1条に規定される誠実義務に照らし、問題解決が求められているのであれば、これを真摯に受け留め、応答すべきではないか」という趣旨の話をされました。

 そして、更生支援はチームで取り組む必要があり、支援活動を行っているうちに仲間ができるという良さがあると結ばれました。

4 パネルディスカッション

 最後に、辻川弁護士、菅原弁護士、進藤一樹会員、精神保健福祉士の寺西里恵さん及び石川県地域生活定着支援センター副センター長の安田博之さんの5名をパネリストに迎え、小倉悠治弁護士(金沢)がコーディネーターとなり、パネルディスカッションが行われました。

 まず、安田さんから、地域生活定着支援センター(以下、「センター」)の業務について簡単な説明がありました。センターは、平成21年度から、保護観察所と協働して出所者支援を行うことを念頭に整備されました。被疑者等の支援については、相談支援業務の一環として行われていたため地域差がかなりありました。令和3年度からセンターの業務として被疑者等支援業務が正式に加わり、弁護士との連携も意識されるようになりました。

 当会では、平成27年度から「相談依頼書」という書式を利用して、被疑者段階からセンターと連携を図れる運用になっています。

 また、進藤会員から、「よりそい弁護士制度」の説明もありました。よりそい弁護士制度は、刑事手続が終わった後の支援活動を対象とした制度ですが、事前に「支援決定」を受けることができます。公判で、「既に支援決定を受け、判決後もサポートを予定している」と主張・立証することで、有利な情状として扱われる事例が出てきています。

 辻川弁護士の講演でも指摘された「気づき」のポイントについては、何かしら違和感を覚えたら、福祉専門職同席で面談をすると良いという話がありました。

 また、福祉専門職との上手なつながり方として、一方的に「ああしてほしい」「こうしてほしい」と言うより、「こんなことできますか?」というように、一緒に考えるスタンスで臨むと良いという話もありました。

 特に印象的だったのは、弁護士の参加者が支援活動について、「うまくいった」「うまくいかなかった」という話をしていたときです。話を振られた福祉関係のパネリストが、「うまくいったかどうかを決めるのは、ご本人だと思います」と発言されました。続いて「自分たちの存在に心地良さを感じて、困ったときに相談できる人が見付かったと思ってもらえれば」という趣旨の発言をされました。

5 おわりに

 午後の定期大会では、今回のシンポジウムを踏まえ、「罪に問われた人たちの社会復帰支援のために、弁護士の積極的な協力・関与を目指す宣言」が決議されました。

 今後、社会復帰支援に関わる弁護士が増えていくことを期待しています。

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決議前に賛成討論を行う筆者