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少年法100年とその未来 改正少年法の意義を問う(6月掲載)

中部経済新聞令和4年6月掲載

弁護士 多田 元

 

 わが国最初の少年法が1922(大正11) に成立して100年になりました。大正少年法は終戦後1948(昭和23)新しい憲法のもと現行少年法に全面改正されました。大正少年法の少年年齢18歳未満を20歳未満に引き上げ、1条に少年の健全な育成を目的とする保護処分優先主義を定め、少年事件はすべて家庭裁判所に送致することとし(全件送致主義)、家庭裁判所の司法機能とケースワーク機能により、少年の権利である成長発達のニーズに応じて、科学的根拠のある個別的処遇を行う保護主義が確立されました。

 私は、家庭裁判所で通算10年少年事件を担当し、出会った少年らの多くは非行の加害者となる以前に虐待、いじめ、大人の不適切な扱いなどで傷ついた孤独な「被害者」の側面を背負っていることを知りました。そして、少年法の健全な育成の目的は、非行を処罰の理由とする前に、少年の成育過程に生じた問題と観る非行観に立つこと、非行から少年を観るのでなく、少年を理解することを通じて非行の意味を理解すること、それは18歳・19歳の年長少年にも異なることはないことを学びました。その経験から、弁護士としては少年のパートナーとして支援することを志しています。

1965年当時家庭裁判所が受理した少年保護事件は100万件を超えましたが、2020年には5万件余りまで減少し、少年院で教育を受けている少年の半数は18歳以上であり、育ちの過程で虐待被害を受けた者の割合も高いことが知られています。国連子どもの権利委員会一般意見24「少年司法制度における子どもの権利」は「18歳以上の者に対する子ども司法制度の適用を認めている締約国を称賛する」と、日本の少年法を高く評価しています。

 少年法の保護主義が有効に機能していることが広く認められているなかで、昨年、少年法は1948年改正につぐ大改正をされ、今年4月1日成人年齢を18歳に引き下げた改正民法と共に施行されました。その改正は、18歳・19歳を「特定少年」とし、原則逆送による刑事処分の拡大強化、保護処分については刑事裁判の「犯罪行為に対する責任非難」を中心とする判断基準「犯情」により限定し、非行時18歳以上で刑事裁判に起訴された少年の実名報道を可能にするなどの特例を定めました。

 改正法は少年法の目的である保護主義を萎縮させ、実名報道は少年を社会から分断し、社会復帰支援を妨げ、再犯への社会不安を増すことが懸念され、報道の良識が問われます。他方、犯罪被害を受けた人の支援に関する改正はありません。改正法に明るい未来を展望できるでしょうか。

 大正少年法に理論的支柱を与えたとされる穂積は、明治40年当時アメリカの少年裁判所を紹介する講演で、判事と少年の人格的交流を話し、少年の改善で犯罪人となるのを防止することは社会の偉大な利益だと説きました。私は、保護主義にこそ犯罪という不幸に対する社会的諸関係修復の可能性を見出せると考えます。

 いまこそ、少年法の未来に人間関係の豊かさ、寛容さがより一層満ちた社会を展望したいと願っています。