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中部経済新聞2022年7月掲載 ひまるん相談室 相続廃除

【質問】私の兄は、酒に酔って暴れては傷害事件を起こし、まともに働きもせずに親や他の親族から借金を重ねています。先日も、私の自宅に兄を泊めてあげたら、翌朝、私の財布から勝手にお金を抜き取っていなくなりました。
 兄の愚行にはへきえきしていますので、兄と縁を切る方法があれば教えてください。

【回答】日本の現行法では、親子や兄弟姉妹との関係性を解消するような制度はありません。

 親子や兄弟姉妹に対して、「今後、一切関わりません」という念書を作成したとしても、法律上の効果はありません。

  親子や兄弟姉妹である以上は、扶養義務や相続権が発生し得ます。

 相続に関して、例えばあなたの親が亡くなった場合、兄が親をどれほど苦労させていたとしても、兄にもあなたと平等に相続権が発生するのが原則です。

 あなたの親が生前に全財産をあなたに譲るという遺言書を作成していたとしても、兄には、遺留分(相続人に対して、遺言によっても奪うことのできない遺産の一定割合の留保分)がありますので、その分を金銭で渡すよう求めてくる可能性があります。

 どうしても相続させたくない相続人予定者がいる場合に有効となるのが、被相続人が、相続人予定者の相続人資格を失わせてしまう「廃除」という制度です。

 相続人予定者(兄)が、被相続人(親)に対して、虐待をしたり、重大な侮辱を与えたり、その他の著しい非行があった場合には、被相続人(親)が、その相続人予定者(兄)を相続から廃除することで、相続権と遺留分を奪うことができます。

 相続廃除の手続は、家庭裁判所において、廃除の請求をするか、あるいは、遺言書に記載する方法があります。

 いずれにしても、被相続人(親)が、生前に廃除の手続を行う必要があります。

 また、廃除は、相続人予定者の相続権を奪うという強力な制度ですので、裁判所に廃除を認めてもらうためには、廃除の理由(虐待・重大な侮辱・著しい非行等)に関する証拠を、今からでもきちんと集めておくことが肝要です。

 なお、仮に、あなたに子どもがいない場合、あなたが亡くなった時のあなた自身の相続に関して、兄が相続権を有する場合があります。

 あなたが、自分の遺産を兄に渡したくないという場合には、遺言書を書く必要があります。

 兄弟姉妹の相続の場合には、遺留分は認められていないので、廃除の手続は不要です。

 いずれにしても、遺言書を作成することで、将来の相続(争族)問題を予防することができますので、一度、弁護士に相談されることをお勧めします。