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中小企業者の事業再生に向けて(7月掲載)

中部経済新聞令和4年7月掲載

弁護士 石井 大輔

 令和4年4月15日より、「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」の適用が開始されました。本ガイドラインは、学識経験者、弁護士・公認会計士・税理士等の実務専門家、産業界・金融界の代表が参画した「中小企業の事業再生等に関する研究会」における議論の成果物として公表されました。

 本ガイドラインの特徴の一つは、今般の新型コロナウイルス感染症による影響からの脱却を念頭に置きつつ、より迅速かつ柔軟に中小企業者(個人事業主を含みます) が事業再生に取り組むことを可能とするために、新たな準則型私的整理手続として、「中小企業の事業再生等のための私的整理手続」を設けたことにあります。

 準則型私的整理手続とは、事業者が、特定の債権者(銀行などの金融債権者)との間で、一定の準則に則って協議を行い、支払猶予や減免等の支援を受けつつ、事業の再生に向けた計画の策定・遂行をする手続です。民事再生手続等の裁判所の関与する法的整理手続と異なり、準則型私的整理手続は、秘密裏に行われますし、原則として仕入先や業務委託先等の商取引先への支払は約定通りに行います。そのため、準則型私的整理手続には、事業価値が毀損(きそん)することを防止できるという大きなメリットがあります。これまでの準則型私的整理手続では、中小企業再生支援協議会(令和4年4 月1 日より、「中小企業活性化協議会」に名称変更)等の機関が第三者の立場で手続に関与し、事業者作成の計画の検証や、金融債権者間の意見調整等の役割を担っていました。

 本ガイドラインの中小企業版私的整理手続では、「支援専門家」(中小企業活性化全国本部及び事業再生実務家協会においてリストが公表されています)と呼ばれる第三者が、中立かつ公正・公平な立場から、中小企業者の策定する計画の検証等を行うことにより、迅速かつ円滑な事業再生手続が可能となることが期待されています。また、本ガイドラインの普及促進のため、中小企業版私的整理手続に基づき計画を策定する中小企業者に対し、計画策定に必要な費用の補助制度も設けられています。

 コロナ禍で売上が減った企業に対する融資の返済の本格化や、ロシアのウクライナ侵攻に端を発する仕入コストの上昇等により、窮境に立たされる中小企業者の増加が懸念されます。中小企業版私的整理手続の活用により、多くの中小企業者の事業再生の実現が期待されます。