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成年後見制度の「利用促進」の意義

中部経済新聞令和4年9月掲載

弁護士 矢野 和雄

 2018(平成30)年に成年後見制度の利用の促進に関する法律(以下、「利用促進法」と言います。)が施行されました。2000(平成12)年に民法が改正され、従来の禁治産・準禁治産宣告制度の内容が一部変更されるとともに名称も成年後見制度と変更されましたが、改正後も利用が増えないことから制定されたのが利用促進法です。

 成年後見制度は本人の権利・利益を保護するための制度として位置づけられています。しかし、他方で、特に「後見」については本人の法律行為に関する能力をほぼ全面的に、かつ一律に制限する制度であり、そのような制度は障害者権利条約に反するとの批判が根強くあります。

 本人の権利・利益を守るために成年後見制度を利用することが必要な人は確かにいます。しかし、社会福祉協議会の日常生活自立支援事業や地域包括支援センターや基幹相談支援センターの相談事業を利用したり、あるいは市町村の中には高齢者や障がいのある人の生活を支援するために、特色ある取り組みを行っている自治体もあり、そのような成年後見制度以外の制度を使って、本人の生活が守られているケースは少なくありません。大事なことはその人が必要としているのは何かをしっかりとアセスメントして、どの制度やサービスを使うのが本人の権利・利益を守り、その生活を支援する上で本当に有効なのかを考えることだと思います。

 利用促進法に基づき策定された成年後見制度利用促進基本計画(第2期)でも、このあたりが意識され、単純な成年後見制度の利用促進ではなく、地域のネットワークの中でその人が必要としていることが何かを把握して、適切な制度やサービスにつなげていくことの重要性が指摘されています。ただし、そのためには、成年後見制度以外の制度やサービスが整備されることが必要で、財政的な裏付けも必要です。自治体の財政力には大きな格差があるのが現状ですから、どこに住んでいるかで不平等が生じないように、国による財政上の支援は必須と思われます。

 もう一つ重要なことは、実際に機能する地域のネットワークを作ることです。生活の支援は少数の成年後見人や福祉関係者だけでなし得る課題ではなく、地域全体で考えることが必要です。しかし地域というのは時として「社会的弱者」に対して冷たい場合があります。高齢や障がいはある特定の人だけの問題ではなく、誰にでも生じる問題ですから、各自治体において、地域の住民がそのようなネットワークに主体的に参加しようとする気になる仕組みを考えていくことが重要と思われます。利用促進法は成年後見制度の利用促進という視点から生まれた法律ではありますが、成年後見制度の利用促進だけではなく、この法律が高齢者や障がいのある人を地域で支えることの契機になることが望まれます。