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ひまるん相談室 ~退任登記の未了、不都合は?~

【質問】私は、親族がやっている株式会社の取締役をしていましたが、健康に不安があることから、先日、会社に辞任届を提出して取締役を辞任することにしました。しかし、会社から、辞任は認めるけれど、経費節約のために退任登記は1年後の任期満了による改選のときまでそのままにさせてほしいと言われ、直ぐに退任登記をしてもらえませんでした。何か不都合はないのでしょうか。

【回答】株式会社と取締役との関係は、委任契約に基づいているため、取締役は、原則としていつでも辞任することができます(ただし、不利な時期には認められないなどの制限があります)。そして、取締役が辞任により退任した場合、会社は当該取締役の退任を登記しなければなりません。

 取締役の登記がそのまま残っている場合、辞任した取締役は、辞任をしたことを知らない第三者に対して「自分は取締役を辞任している」という主張をすることができません。そのため、既に取締役を辞任したつもりでも、会社債権者が取締役に責任追及するなどの会社の紛争に巻き込まれてしまう可能性があります。そのような紛争に巻き込まれないよう、取締役を辞任した場合は会社にきちんと退任登記をしてもらう必要があります。

 とはいえ、会社の登記は会社の代表者が行うものですので、会社の協力なく退任登記を行うことはできません。会社が経費削減を理由に登記してくれないのであれば、先ほど説明した不利益を避けるためにも自ら費用を負担してでもきちんと登記をしてもらうべきです(自ら負担した費用を会社に請求できるかは、また別の法的問題があるのでここでは割愛します)。

 それでもなお会社が協力的ではないときは、会社に対し取締役退任登記手続を求める裁判をすることができます。ただし、取締役会設置会社等において辞任により取締役の最低人数に欠員が生じる場合には、新たな取締役が選任され就任するまでの間、辞任した取締役は引き続き取締役としての権利義務を有することが規定されています。この場合には、辞任届を出しただけでは退任登記手続請求が認められませんので、裁判所に対し、退任登記手続請求と併せて仮取締役の選任の申立てを行う必要があります。

 このように、取締役を辞任したのにもかかわらず取締役の登記をそのまま放置してしまうと思わぬ紛争に巻き込まれてしまうことがあります。会社が穏便に手続に応じてくれない場合には、裁判手続により解決することが必要となります。その場合は、弁護士にご相談ください。