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シンポジウム「貧困問題を受け止めたその先~子ども・若者が夢を描ける社会の実現をめざして」開催される

会報「SOPHIA」 平成29年3月号より

会員  森    悠

1 はじめに

 2月25日、著書『下流老人』がベストセラーとなった社会福祉士の藤田孝典氏と「ブラックバイト」という言葉の名付け親である大内裕和氏を講師にお招きし、標記のシンポジウムが開催されました。以下、基調講演やお二人の対談から学んだことをご報告します。

2 貧困問題の受け止められ方

 2000年代前半は、貧困というのは努力不足の人、無計画な人の問題と捉える向きが多くありました。しかし、近年は中間層にも貧困が及んできており、自分の問題として捉える風潮が広がってきています。もはや貧困問題は社会構造の問題であり、自己責任論では説明が付かなくなってきているといえます。

3 日本の貧困問題の現状

 日本国民の相対的貧困率(国民1人の所得の中央値の半分に満たない人の割合)は16.1%であり、これはOECD加盟国34か国中、6番目に高い数値です(2011年・OECD調査)。所得にすると、1人世帯では122万円、4人世帯では245万円を下回る場合に貧困としてカウントされています。特に深刻なのは、母子家庭などのひとり親世帯であり、相対的貧困率は54・6%にも上ります。
 また、貧困は世代を問わず広がっています。藤田氏に実際に寄せられた相談の一例として、24歳の男性で、大学卒業後に就職したが、長時間労働とパワハラによって精神疾患を起こして就業が難しく、奨学金350万円の返済及び家賃を滞納しているという例が挙げられます。このような例は珍しくなく、多額の奨学金を抱えて親族の援助を受けることも困難な20代が増えています。このような状況では日々の生活で精一杯であり、「結婚や出産はぜいたく」という風潮さえ出てきています。

4 貧困の要因

 まず、所得の減少はもちろんのこと、防貧施策や社会保障制度の不十分さが挙げられます。大学卒業後、新卒で入社して定年まで働くという企業秩序から病気等の理由により外れると、貧困に陥らざるを得ないという社会構造が出来上がってしまっています。
 最近の大学生は、親の所得減少による仕送りの減少、学費高騰によって、大学へ通うためには奨学金では足りず、バイト漬けの日々を送らざるを得ない人が増えています。そこまでして大学へ通うのは、安定した企業に就職するには大卒切符が重要であるからです。
 また、格差の広がりも深刻で、世帯収入と学歴・学力・就職率等は正比例し、収入が多い家庭ほど有利という数字が出ています。

5 貧困問題を解消するためには

 「頑張って働けば貧困から脱却できる」と考える人がいます。しかし、多くの労働者が低賃金労働に従事していて、最低賃金の全国平均はドイツが1246円、アメリカでも817円である一方、日本では749円です。加えて、平均家賃の上昇、多額の奨学金の返済等の負担も重くのしかかります。
 日本では教育予算のGDP比が先進国平均の半分であり、高等教育への予算配分が不足しています。しかしながら、高等教育への投資の不足は現役世代の雇用の不安定を招き、ひいては退役世代の老後も危うくすることが明らかです。給付型奨学金を増設する等、教育への投資を増やしていくことが重要です。
 当会でも更なる取り組みを進めたいです。