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国際人権最前線 ウクライナ難民とウクライナ避難民

会報「SOPHIA」令和4年6月号より

人権擁護委員会 国際人権部会 部会員 川 口 直 也

1 ロシア連邦は、2月24日、ウクライナに対する「特別軍事作戦」を開始した。国連安保理の常任理事国によるウクライナへの軍事侵攻は、現在進行形で、全世界に衝撃を与え続けている。UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)によれば、5月23日現在、ウクライナ国外に避難した人は600万人を超え、同国内で避難生活を余儀なくされている人はおよそ800万人に上るとされている。

2 このウクライナ難民について、報道では、「ウクライナ避難民」と呼ばれており、「ウクライナ難民」とはされていない。難民とは、「戦争・天災などのため困難に陥った人民。特に、戦禍、政治的混乱や迫害を避けて故国や居住地外に出た人。亡命者と同義にも用いるが、比較的まとまった集団をいうことが多い。」(広辞苑)とされているから、ウクライナから逃れた人々を、ウクライナ難民と呼ぶことは、通常の用法である。しかし、報道では、ウクライナ避難民とされウクライナ難民とはされていない。これは、政府が、ウクライナ難民ではなく、ウクライナ避難民と呼称しているからである。

3 ウクライナ難民に対しては、政府も従前の難民支援に対する消極的な姿勢を相応に改め、ウクライナから来日する避難民に対する支援を適時適切に行うために、ウクライナ避難民対策連絡調整会議を開催し、比較的積極的な姿勢を示している。しかし、難民ではなく、避難民としているのは、ウクライナ難民を難民条約上の難民と認め、難民条約に基づき受け入れる事態になることを避けたいからと言わざるを得ない。このことは、総理大臣が、ウクライナ避難民の受け入れ対策として「難民条約上の理由以外により迫害を受ける恐れのある方を適切に保護するため、法務省で難民に準じて保護する仕組みの検討を進めている」と述べたことから分かる(6月2日付「ウクライナ避難民保護を名目とする入管法改定案の再提出に反対する会長声明」東京弁護士会)。ウクライナ難民を条約上の難民として義務的に受け入れる事態を避け、これに該当しない準難民として裁量的に庇護を与えたいという政府の意向が、「ウクライナ避難民」という言葉に込められているのである。

4 難民条約上の難民は、人種、宗教、国籍、政治的意見または特定の社会集団に属するという理由で、自国にいると迫害を受けるおそれがあるために他国に逃れ、国際的保護を必要とする人々である。ウクライナ難民の多くは、条約上の難民に該当し、条約上の難民としての庇護が与えられなければならない。  国境を越えていないことから、条約難民として保護されない「国内避難民」という用法であれば分かるが、国境を越えたウクライナ避難民には違和感がある。「ウクライナ避難民」という呼称からは、条約上の庇護を与えたくないという政府の意向が感じられる。

5 令和3年における日本の難民認定者数は74人にすぎず、本国の情勢から当然に保護されるべきビルマ出身の32人を除くと、42人に過ぎない。このように、日本では、保護されるべき難民が十分に保護されない極めて厳しい状態が続いている(5月13日付「入管庁発表『令和3年における難民認定数等について』を受けての声明」全国難民弁護団連絡会議)。

6 ウクライナ難民に対しては、日本の市民社会はこれまでになく好意的である。これを機に難民支援の機運が高まることを願う。