愛知県弁護士会トップページ> 愛知県弁護士会とは > ライブラリー > 学校に関する諸問題研修(第3回)
校則問題について~性別不問の標準服導入を通して気付いたこと~

学校に関する諸問題研修(第3回)
校則問題について~性別不問の標準服導入を通して気付いたこと~

会報「SOPHIA」令和4年2月号より

子どもの権利委員会 委員 内山 智映子

日時 2月14日 10:30~12:00
場所 Zoom
講師 後藤 富和 弁護士(福岡県)

 講師は、中学校PTA会長だった2年間で旧来の男女別制服から性別不問の選択式標準服導入を実現した。現在は校則問題に関わっており、福岡市、福岡県での学生服及び校則問題への取組を紹介いただいた。
 選択式標準服導入に取り組むきっかけは、性別に違和感を覚える高校生から制服着用を強要された中学時代を「地獄だった」と聞いたこと。学生、保護者、弁護士、LGBT支援団体代表、市議会議員等と「福岡市の制服を考える会」を結成した。緊張して相談すると「だったら変えれば?」と校長の協力を得た。1年目はPTAの広報や研修を通して、LGBTと制服に対する理解を深め、ジェンダーフリーの標準服導入の土台を形成した。制服問題は地域にも影響があるので、研修は地域の人や市議会議員にも開放して理解を求めた。目標を、性的少数者のためとするのではなく、全員が活動しやすい服にすることとし、先に購入しやすい値段を設定しコンペを行うなど工夫し生徒の声も反映した。異なる服装が目立たないよう、名簿も整列も男女混合にした。しかし、当該取組を伝える報道で「性的少数者への配慮」等の表現が目立ち、スラックスを選ぶ妨げにならないか不安だった。
 一方、教員の理解は進まず、校長が入学予定者に「あなたたちが活動しやすいと思う服をあなたたちが選んでよいのだからね」と話した直後に生徒指導教師が「男子は選べんからな」と叫んだというのは衝撃だった。実現までに、教員や地域から様々な反対や、びっくりするような差別意識も感じたそうだ。しかし蓋を開けてみれば、多数の女生徒が颯爽とスラックスを履いて登校したという。小学校までは各自活動しやすい服装だったことから、スラックスを選択することは、大人が思うより自然な流れだったのかもしれない。翌年には、福岡市と北九州市全体で標準服が導入される進展があったが、PTA会長と校長が揃って退任した当該校では、注文票の男女別記載が復活するなど元に戻そうとする力も強い。
 制服に続き問題ある校則の存在が明らかとなり、福岡県弁護士会が調査を実施した。集団で跪かせてのスカート丈確認や廊下に並ばせシャツの前をはだけさせて下着を見るという耳を疑う例もあった。弁護士会が「中学校校則の見直しを求める意見書」を出すと、福岡市教育委員会が設置した校則見直し協議会の提言を受けた中学校校長会は「よりよい校則を目指して」という提案書を発表、社会の変化に適応し生徒の人権を尊重した校則の見直し、管理を目的とする校則からの脱却を提案した。
 それにしても、なぜ、そこまで教員が反発するのか。それは教員の時間不足及び学校という特殊な環境に原因があるという。精神を疲弊させるような忙しさ、社会との繋がりのなさ、そして閉塞した職員室の空気感。生徒指導を担当する教員は嫌われ役な反面、職員室内に影響力を持ちがちで、各教員はその意向に反した行動を取らない。教員の労働過多は周知のとおり。だからといって子どもを抑圧し管理することでそれぞれの人格が育つ機会を失わせてはならない。子どもが考え、意見を言うためには、聞いてくれると感じる環境を作ることも必要だ。
 講師の経験は、やろうと思えば変革できることを示している。学校問題は、弁護士会の提案が効果に繋がりやすいともいう。学校に人権の視点を入れること、学校の当たり前を疑うなど弁護士にできることは多数ある。学校はこんなもの、変えられないと諦めず、子どもの声を聞きながら、現代にふさわしい学校作りに参加できたらと勇気づけられる研修だった。