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~保護・管理にも役立つ~

個人情報の利活用を促す仮名加工(5月掲載)
~保護・管理にも役立つ~

中部経済新聞令和4年5月掲載

弁護士 加藤 光宏

 個人情報というと、企業などは、漏洩しないよう管理が大変などの印象があるかも知れない。しかし、GAFAに代表されるように、個人情報は活用すれば企業などに多大な利益をもたらすこともある。個人情報の保護に関する法律(以下、「保護法」と略す)も、近年、個人情報の保護を図りつつ利活用を促進するという方向性を明確に表している。

 保護法は、令和2年に改正され本年41日が全面施行とされたが、その間、デジタル庁の設立に伴って令和3年改正がなされ本年41日に一部試行となった。令和2年法は表舞台に立てないまま終わってしまった。もっとも令和3年法にも令和2年法の内容は生き残っている。

 個人情報の保護について注意すべき改正点として、まず個人情報の漏洩などが生じた場合の個人情報保護委員会への報告などについて、従来は努力義務だったものが、義務と改正された。また、保有個人データについて本人が利用停止・消去の請求、第三者提供の停止の請求を求めるための要件が緩和された。それぞれ企業などとしては、個人情報の管理に一層の注意を要する状況になったと言える。

 個人情報の利活用については、仮名加工情報に着目したい。仮名加工情報とは、その情報単体では特定の個人を識別できないように個人情報を加工したものを言う。ただし、個人情報から、氏名など個人を識別できる情報を削除することだけでは足りない。クレジット番号など不正利用によって財産的被害につながり得る記述などの削除も必要だ。

 保護法上、個人情報の利用は、あらかじめ定めた利用目的の範囲内に限られ、これをむやみに広げることはできない。しかし、仮名加工を施せば、当初予定していなかった利用目的にも利用可能となる。自社製品の購買層の把握、商品企画開発などさまざまな解析が可能となるのだ。このように利用価値の高い個人情報であるが、令和2年情報通信白書によれば、匿名化した個人情報の活用に前向きな企業などは2割強にとどまっている実情のようである。

 個人情報は保護されるべきものである。しかし、保護・管理をすることばかりに重点を置いていると、義務的な対応に追われ、行き届かない面が生じてくるかも知れない。むしろ、仮名加工情報の内容を理解した上で、保護法に則った適正な利活用を促進することで、自ずと企業などが保有する個人データの全体像を把握することにつながり、かえって個人情報の保護・管理にも資するだろうと信じたい。