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認知されていない労災の任意保険(11月掲載)
~加入は企業と労働者を救う~
認知されていない労災の任意保険(11月掲載)
~加入は企業と労働者を救う~
弁護士 片 岡 憲 明
1 はじめに
自動車に乗るときは、万が一、交通事故が発生してしまうと、多額の損害賠償責任を負担する可能性があるため、自賠責保険に加えて任意保険に加入することは常識となっています。
ところが、企業内の労災事故については、任意保険に加入している例は少ないです。
労災は強制加入保険があるから、それで十分じゃないのか。そう思われる経営者の方も多いと思います。
ところが、それでは不十分なことが多いのが実情です。自動車の自賠責保険と同様、強制加入保険は、企業の賠償責任のごく一部しかカバーしていないのです。
私は、企業側で労災事故に対応することが多いのですが、企業側で任意保険に加入していれば、ここまで企業も労働者も苦しむことがなかったであろう、と残念に思う経験を何度もしております。
2 私が体験した事案について
労災事故でいざ重大な人身損害が発生した場合、企業が甚大な損害をこうむることになります。
過去に私が経験したケースとして、こういうものがありました。
①ゴミ処理場において、従業員がホイルローダーを運転操作していたところ、背後にいた別の従業員に気付かず、ホイルローダーを後退させたため、従業員が重大な後遺障害を負ってしまった。
②工場作業員が、プレス機を使用して部品を製造していたところ、誤った方向から手をプレス機に入れてしまったために安全装置が作動せず、手の一部を欠損した。
③弁当工場で働いていた従業員が滑りやすくなった床で足首をひねって転倒し、足の神経を傷つけ後遺障害が残った。
これらの事故で、企業は、数百万円から数千万円の賠償責任を負います。強制保険では、このうちの2割から3割程度しかまかなえない場合もあります。
企業が労災の賠償責任保険に加入していれば、上記のような事件において企業の負担金はありませんでした(勿論、保険料は必要です。)。
3 入る保険を間違えないで
注意するべきは、「賠償責任保険」に加入するべきだということです。
せっかく企業が労働者のために保険加入していても、傷害保険だと、企業の賠償責任は軽減されない可能性があります(約款によります)。
なお、傷害保険金は、賠償金額と比べ、極めて低額に設定されていることが多いのも難点です。
このように労災の任意保険に加入すれば、企業は大きな損害を回避できますし、労働者は企業の支払能力に関係なく、賠償金を受け取ることができます。
労災の任意保険加入は企業と労働者を救います。
会社の実情をふまえ、労災の賠償責任保険の加入は検討された方がよいと思います。