愛知県弁護士会トップページ> 愛知県弁護士会とは > ライブラリー > 中部経済新聞2021年11月掲載
ひまるん相談室~父の葬儀費用を引き出したい~

中部経済新聞2021年11月掲載
ひまるん相談室~父の葬儀費用を引き出したい~

【質問】

 亡くなった父の葬儀費用を父の残した預金から引き出したいのですが、他の兄弟が預金の引出しに反対しています。当分、遺産分割の話し合いもできそうにありません。父は遺言書も作っていませんでした。このような場合でも父の預金から葬儀費用を引き出すことは可能ですか。

【回答】

 現在の判例では、相続された預貯金債権は遺産分割の対象であるとされています。そのため、共同相続人全員の同意を得なければ、一人の相続人が単独で預貯金を引き出すことができないのが原則です。

 しかし、今回のご質問のように、被相続人が亡くなると、葬儀費用などの出費があります。また、被相続人に扶養されていた相続人は、預金の払戻しができないと、当面の生活に困ってしまいます。

 そこで、令和元年七月一日に施行された、改正された民法では、相続人のさまざまな資金需要に対応するため、相続人各自が、遺産分割前に、裁判所の判断を経ることなく、一定の範囲で遺産に含まれる預貯金を払い戻せることになりました。

 この改正のポイントは、遺産分割の手続きを経なくてよいので、すぐに遺産分割の話し合いを行うことが難しい場合でも、利用可能である点です。

 ただし、裁判所の判断を経ずに払戻しを認める制度であるため、払い戻せる金額に上限があります。

 具体的には、相続開始時の預貯金の額の三分の一に、払戻しを求める共同相続人の法定相続分を乗じた額について、単独で払戻しを求めることができます。ただし、一つの金融機関に対する上限金額は、百五十万円とされています。

 必要な書類は金融機関によって異なる場合がありますので、払い戻し請求をする各金融機関にご確認ください。