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~婚姻の自由は法制度のあり方に優先する~

夫婦別姓の問題に関する最高裁判決を受けて(9月掲載)
~婚姻の自由は法制度のあり方に優先する~

中部経済新聞令和3年9月掲載

弁護士 橫地明美

2021年6月23日,最高裁大法廷(重要な問題として取りあげた事案について,最高裁裁判官15人全員で判断する法廷 です)は,事実婚カップルが,同じ名字(姓)でないと婚姻届を受理しないという法律の規定(民法及び戸籍法。以下,夫婦同氏制)が,憲法24条などに違反しているなどとして訴えた訴訟で,合憲判断を出しました。

約6年前の2015年,最高裁は,夫婦同氏制の違憲性が問われた大法廷判決で,婚姻に伴って姓を改めたときのアイデンティティ喪失感,婚姻前に築いた信用,評価等を婚後も維持する利益が,婚姻と家族に関する法制度のあり方の検討時に考慮すべき人格的利益であるとは認めつつ,基本的には国会の合理的な裁量に委ねられた問題で,姓は個人の呼称としてだけでなく家族という集団の構成員であることを示す呼称としての意義があることや,婚姻前の姓の通称使用が社会的に広まっていて不利益が一定程度緩和されうることなどを理由に,合憲と判断し,「この種の制度の在り方は,国会で判断されるべき事項にほかならない」としました。

今回の大法廷決定の多数意見は,この2015年の最高裁判断に沿って簡単に合憲判断を導き出したもので,その点で大変残念でした。

ただ,4名の裁判官は違憲判断を出し,なかでも宮崎裕子裁判官と宇賀克也裁判官は,大変説得的な憲法24条違反の意見を書いています。

その意見では,婚姻するか,いつだれとするかは,「幸福追求」のため最も重要な意思決定の1つで,婚姻は両当事者の「合意のみに基づいて成立する」との憲法規定は,「個人の尊厳」に基礎をおき,"婚姻の自由"を保障していて,法律が当事者の合意以外に不合理な要件を定めることは,違憲の疑いがあるとしました。そして,夫婦同氏制は,婚姻をするためには当事者のうち1人が必ず姓を変更する他に選択の余地がなく,婚姻の際に姓の変更を望まない当事者も,姓の維持に関わる人格的利益を放棄・喪失しなければ婚姻ができないという意味で,婚姻の自由を制約していて,その制約には合理性がない,と述べました。なお,憲法上の(権利ないし利益の)保障に関する法的問題なので民主主義のプロセス(国会)に委ねるべき問題ではないとも述べました。

裁判所としては,近年,選択的夫婦別姓導入を求める声が増えているにも関わらず,国会の立法不作為状態が続いてきたからこそ,救済を求める人々からの訴えが続いていることを受け止め,"人権の最後の砦"の役割を果たすべきだと思います。

政府により通称使用の拡大が進められていますが,戸籍上の姓と通称とのダブルネーム併用は,本人も管理する側もコストが大きく,社会生活の重要な場面での個人識別機能は不十分で,本人の不利益の完全な解消にはなりません。

 何より,法制度のあり方以前の人権問題としての個人の婚姻の自由を保障すべく,最高裁判所は,同氏強制制度は違憲である旨を明確に判断すべきだったと思います。

以上