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暴力団による特殊詐欺被害(8月掲載)

中部経済新聞令和3年8月掲載

愛知県弁護士会弁護士 淺見敏範

 令和3618日、東京高等裁判所は特殊詐欺被害に係る組長責任訴訟において、指定暴力団住吉会が特殊詐欺被害者らに652194216円を支払う和解を成立させた。同時に、既に和解金は被害者弁護団に支払われたとも聞いている。これは、住吉会音羽一家の組員4名が主要メンバーとなって実行した特殊詐欺事件の被害者の依頼で東京の民暴委員が提訴した二つの事件(住吉会音羽一家第1事件と第2事件)が併合されたものである。

 第1事件は平成28630日に提訴、令和2925日判決が控訴され、第2事件は平成296月に提訴、令和3226日判決が控訴され、東京高裁はこれを併合審理したうえで、令和3618日、両事件を一括して和解成立させた。和解金額は詐取金額(計617932603円)を5%ほど上回った。

 東京高裁では、近時、暴対法31条の2を適用した同様の組長責任訴訟で被害者の請求を認容する判決が何件も続いているが、住吉会音羽一家事件では次の点が際立っている。

 まずは被額回復額が格段に大きい点である。もっとも、原告は第1事件8名、第2事件44名の計52名であり、一人当たりの被害回復額は平均1250万円と目立つものではない。ただ、弁護団の繁雑な事務処理には頭が下がる思いがする。ちなみに、警察庁の統計によれば令和2年の特殊詐欺被害総額は2778000万円という。この事件で回復された被害金額は、被害総額の2.3%に過ぎないのだ。高額な和解金を一括で支払った住吉会は特殊詐欺でいったい幾らのシノギを上げていたのだろうか。

 原告が50名を超える集団訴訟は民暴被害の分野では珍しい。民暴被害を回復する裁判では刑事事件が先行することが多く、第1事件もそうであった。他の民暴事件も原告となるのは刑事事件の被害者であることが多い。しかし、第2事件の被害は刑事事件化されていない。刑事事件を頼らず組長責任を追及し、被害回復を実現した点は特筆すべきであろう。

 消費者被害の分野では消費者裁判手続特例法により早期に被害回復される途もあるが、民暴被害は個別に損害賠償請求訴訟を提起するしかない(暴対法32条の4は組事務所使用差止請求のみ)。今回、第1事件の5ヶ月後に第2事件が控訴されるのを待って併合審理とし、3ヶ月で和解を成立させた東京高裁の訴訟指揮は見事であった。

 特殊詐欺はお年寄りをターゲットにした卑劣な犯罪である。特殊詐欺を資金獲得活動の1つとする暴力団はSNSを利用して高額バイトで一般学生を誘い込み、特殊詐欺グループとして反社会的勢力に仕立てあげるのだ。うまい話にはご用心を。