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子どもの利益守るために(7月掲載)

離婚後共同親権の導入に不安の声
子どもの利益守るために(7月掲載)

中部経済新聞令和3年7月掲載

愛知県弁護士会弁護士 岡村晴美

現在、日本は、離婚の際に父母の一方を親権者と定める、単独親権制度をとっています。これに対して、離婚した父母の双方が親権者となる「離婚後共同親権」への法改正を求める声もあります。離婚後も、パパもママも子育てに関与した方が良いという考えが生じるのは当然のことですし、欧米において「共同親権」が採用されていると聞くと、日本もそれに続くべきだと考えることも理解できます。

 しかし、離婚後共同親権の導入には、大きな問題があります。それは、離婚後共同親権という枠組みを利用して、DVや虐待の加害者が、元配偶者や子どもへの支配を継続し、深刻な事態を引き起こしかねないという問題です。

 「共同親権」と聞くと、協力し合う関係のように思われがちですが、「共同でないと親権を行使できない」ということを意味します。転居や進路、歯列矯正などの決定を、離婚後も話し合って決めることが要請され、話し合いで決まらなければ、裁判所で決めることになります。また、「共同」のためには、「友好的」であることが求められ、DVや虐待の主張をしたが認められず、「非友好的」とみなされて加害者に親権が認められてしまう事例が頻発したため、欧米では共同親権制度の見直しがすすんでいます。

 日本の場合、家父長制的な考えが色濃く残っているという特徴もあります。DVや虐待に耐えかねて、女性が子どもを連れて家を出て行くことに対して、「連れ去り」「実子誘拐」という過激な言葉で、子連れ別居の厳罰化を求め、女性についた弁護士に対して、「連れ去りビジネス」「洗脳した」などとSNS上で実名を挙げて非難し、弁護士会に懲戒請求を繰り返し、法律事務所前で街宣するなど過激さを増しています。

夫婦が別居にいたる理由は、様々あります。子どもに関する裁判は、子どもの利益を最優先に考えることが大切で、きめ細やかな調査や配慮ができるように、地方裁判所とは別に、家庭裁判所が設置されています。子連れ別居を一律に厳罰化すれば、DV被害者が逃げることをためらい、被害者と子どもを危険にさらします。民法は、離婚後においても、良好な関係にある夫婦が、子どもを共同で監護することを認めており、家庭裁判所の実務上も、面会交流は広く認められる傾向があります。DVや虐待に関する日本の施策が不十分であることを併せ考えると、家庭裁判所で守った依頼者と子どもの安心が、離婚後共同親権の導入によって脅かされるのではないか不安に思います。

この問題は、企業にとっても無関係ではありません。今年の某メガバンクの株主総会では、定款に「子どもの連れ去りを禁止する文言を加えること」が、株主より提案されました。驚いてしまいますが、株主総会の対策としても、離婚後共同親権について正確な理解をしていただきたいと思います。