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多国籍種子企業の思惑(6月掲載)

危ない 日本の食と農家
多国籍種子企業の思惑(6月掲載)

中部経済新聞令和3年6月掲載

愛知県弁護士会弁護士 野田葉子

 以前の日本は、都道府県が安定して良質な種子を安価で農家に提供する責任がありました。これは種子法という法律で定められていたものです。また農家は、種子を自家採取・自家増殖することが自由に認められていました。これにより農家は種子にかかるコストを抑えることができるため、安価で農作物を販売できていました。

 私達が良質で安価なお米などの主要農作物を食べてこられたのは、種子法のおかげだったのです。ところが種子法が廃止され、さらに種苗法が改悪され自家採取・自家増殖が原則禁止されたことにより、今後農家は、高額な種子を買わなければ農作物を栽培できなくなりました。日本の農家は、その大半が小規模経営です。

 現在、例えば民間の開発米の代表格「みつひかり」は、都道府県の開発米のおよそ10倍の値段でしか購入できません。このような高額な種子を購入しても利益を上げられるのは、企業型の大規模農家でなければ困難ですので、日本の大半の農家が廃業に追い込まれると考えられます。

農家だけの問題ではありません。当然、種子の値段が上がれば、農作物の値も上がり、消費者の懐を圧迫します。

 しかしもっと深刻な問題があります。それは食の安全です。種子を販売する多国籍企業は、農薬と化学肥料をセットで種子を売りつけることが予想されます。

 種子企業で最大のシェアを持つモンサント社(現バイエル)の販売するグリホサートを主成分とする農薬「ラウンドアップ」は、アメリカでは発がん性があることが認められ、損害賠償請求も認められました。また、オーストリアでグリホサートの使用を全面禁止する法案が可決するなど、EUでもグリホサート禁止の動きが加速しています。

 にもかかわらず、日本はグリホサートの使用を大幅に緩和する措置を取ったのです。これにより、モンサント社(現バイエル)が日本に大量のラウンドアップを種子とセットで売りつけることが容易に予想されます。

 さらに、種子企業は、遺伝子組み換え、ゲノム編集された種子の販売を主流にしようとしています。日本では、2019年より、ゲノム編集による食品は安全だから表示義務はない、とされています。

 ですが、ゲノム編集した作物が、どのような副作用が起き、どのような毒素が出てくるかはまだ全く未知数で、とても安全と言えるような代物ではありません。EUや中国では規制をかけているのに、日本は世界の潮流に逆行しているのです。

多国籍種子企業の利益のために、私たちの食の安全が害されて良いはずがありません。食の安全を守るためには、今後も種苗法関連の動きや食品表示義務の改定などを注視していく必要があります。