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ヘイトスピーチについての研修会
会報「SOPHIA」 平成29年2月号より
人権擁護委員会 国際人権部会 部会員 青 木 有 加
ヘイトスピーチ解消法(以下「解消法」)が昨年6月3日に公布・施行され、自治体にも参加を呼びかけたところ3つの自治体から職員数名が本研修に参加した。
最初に、ここ数年の特に在日コリアンを対象としたヘイトデモを撮影した動画(名古屋栄のヘイトデモ、殺せ・大虐殺を行う等の言動、聴衆を取り囲み罵声を浴びせ襲撃する様子)を視聴した。以下、主な内容を報告する。
1 国際法上のヘイトスピーチの定義と害悪
国際人権法上、ヘイトスピーチとは歴史的・構造的に差別されてきた人種、民族、社会的出身、国籍、性別、性的指向、障がいなどにおけるマイノリティの集団・個人に対する、その属性を理由とする差別を煽動する表現をいう。ヘイトスピーチは対象者への害悪のみならず、マイノリティへの差別・暴力をはびこらせ、マイノリティ及び平等に関する言論を萎縮させ、民主主義を破壊し、ジェノサイド、戦争へ導く。対象者は言論でヘイトスピーチに対抗することはできない。
2 日本の現状と国際的評価
日本では、2012年12月以降特に悪化したヘイトスピーチであるが、構造的に差別されてきたマイノリティを対象とした差別言動はかつてより存在した。人種差別撤廃条約は差別撤廃政策を行う義務を課しているが、政府は2013年1月の国連人種差別撤廃委員会への報告書の中で、新法を作るほどの人種差別もヘイトスピーチも認識していない等と報告しており、国際NGOからも致命的に取組が遅れていると評価されている。
3 解消法制定の問題点と意義
解消法は、差別的言動の対象を限定するといった条約違反があり、実効性が低いという問題点がある。もっとも、差別的言動が対象者に多大な苦痛を強い、地域社会に深刻な亀裂を生じさせるという害悪と、ヘイトスピーチ解消が喫緊の課題であることを認め、反差別法整備の第一歩といえる。
4 解消法施行後の法務省・自治体の取組み
解消法施行後の具体的効果として、川崎市長が解消法と付帯決議の精神を尊重すると発言し、ヘイト集会の公園使用を不許可とした。法務省がヘイトスピーチ被害相談対応チームを設置したり、解消法ガイドラインを作成して地方自治体へ配布したり等した。3月末には、法務省が外国人の人権に関するアンケート結果を発表する予定である。
5 ヘイトデモ禁止仮処分決定要旨
解消法施行前日に横浜地裁川崎支部で出された川崎市内の在日コリアンの男性が理事長を務める法人の事務所から半径500メートル以内でのヘイトデモおよび徘徊を禁止した仮処分決定では、「国外の国や地域の出身者で適法に在住する人が国外の出身であることを差別されたり、地域社会から排除されたりすることのない権利は、憲法13条に由来する人格権を持つ前提になるものとして、強く保護されるべき」「この人格権の侵害への事後的な権利回復が著しく困難であることを考慮」し、事前の差止めを認めた。
6 解消法の活用と今後のロードマップ
今後、構造的差別をなくすために、公共施設利用やインターネット上の書き込みについての削除要請などのガイドラインや条例等地方公共団体の取組みは重要となる。地方公共団体による人種差別撤廃条例制定が国の法制度も動かす可能性がある。