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性犯罪・性暴力をめぐる最近の動き① ~性犯罪・性暴力対策の「集中強化期間」(令和2~4年度)

犯罪被害者支援連載シリーズ
性犯罪・性暴力をめぐる最近の動き① ~性犯罪・性暴力対策の「集中強化期間」(令和2~4年度)

会報「SOPHIA」令和2年11月号より

犯罪被害者支援委員会 委員 長谷川 桂子

1 改正附則による3年後見直しに向けてのこれまでの動き


 平成29年に刑法の性犯罪規定改正の際、改正附則第9条で「政府は、この法律の施行後3年を目途として、性犯罪における被害の実情、この法律による改正後の規定の施行の状況等を勘案し、性犯罪に係る事案の実態に即した対処を行うための施策のあり方について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずる」とされたことから、政府は昨年度(令和元年度)までに次のような調査・研究を行ってきた。
【法務省】「性犯罪に関する施策検討に向けた実態調査ワーキンググループ」の設置(平成30年4月)と「取りまとめ報告書」(令和2年3月)の作成。
【内閣府】「若年層における性的な暴力に係る相談・支援の在り方に関する調査研究事業」報告書(平成30年9月)と「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターを対象とした支援状況等調査」報告書(令和2年3月)の作成。

2 本年度(令和2年度)の動き

 これらを受けて、「性犯罪に関する刑事法検討会」(法務省)が立ち上がり、更なる刑法改正の要否、内容について検討しているところであるが、政策の場面でも、国は令和2~4年度の3か年を「性犯罪・性暴力対策の集中強化期間」として「性犯罪・性暴力対策の強化の方針」を決定し、5つの方針が示された。内閣府はじめ法務省、警察庁、厚生労働省、文部科学省等、多省庁にわたる施策が示され、「実施工程(目標)」も作成されている。方針と施策の主な内容は次のとおり。
(1)刑事法に関する検討とその結果を踏まえた適切な対処(法務省・関係省庁)
 ①刑法改正の検討と所要の措置、②障害のある被害者への協同面接の拡大等、被害者からの事情聴取のあり方の検討、対処、③「フリーズ」と呼ばれる症状を含む性犯罪に直面した被害者心理や障害のある性犯罪被害者の特性や対応について検察官等に対する研修の実施等。
(2)性犯罪者に対する再犯防止施策の更なる充実(法務省)
 ①刑事施設・保護観察所で実施しているプログラム拡充の検討、②出所者情報の把握等による新たな再犯防止対策の検討(GPS機器の活用の検討を含む)等。
(3)被害申告・相談をしやすい環境の整備(警察庁)
 ①被害届の即時受理の徹底、②捜査段階での二次的被害の防止、③被害者がワンストップ支援センターに繋がるための体制強化等。
(4)切れ目のない手厚い被害者支援の確立
(内閣府・関係省庁)
 ①ワンストップ支援センターにおける支援の充実、②中長期的な支援体制の構築、③被害者の医療費負担の軽減等。
(5)教育・啓発活動を通じた社会の意識改革と暴力予防(文科省)
 ①性暴力・性被害の予防や対処に関する教育(発達段階に応じた取組、教材・啓発資料・手引書の作成・改訂、教職員含む関係者への研修の実施)、②学校等での相談体制の強化、③教員等の厳正な処分等。

3 まとめ

 被害が潜在化しやすく、置き去りにされやすい性暴力・性被害について、国がここまで積極的に取り組む姿勢を明確にしたのは初めてではないかと思われる。行き過ぎた人権侵害への警戒は留保しつつも、性犯罪・性暴力の被害根絶、被害者支援の取組に期待したい。