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犯罪被害者支援条例をご存じですか?

犯罪被害者支援連載シリーズ86
犯罪被害者支援条例をご存じですか?

会報「SOPHIA」令和2年8月号より

犯罪被害者支援委員会 委員長 今 枝 隆 久

1 犯罪被害者支援条例の必要性

 犯罪被害者支援については、近年法律の整備が進みました。平成17年から、犯罪被害者等基本法(以下、基本法)が施行され、平成20年からは、被害者参加制度、損害賠償命令制度が導入されました。こうした制度については、施行から10年以上が経ち、ご存じの方も多いと思います。
 しかし、犯罪被害者や遺族の支援としては決して十分であるとはいえない状況です。ある日突然、一家の大黒柱の家族を犯罪で失って、残された家族はどうしていけばよいのか、相談しようにも、その気力すら失ってしまう、そのような犯罪被害者や遺族の状況は、前記の制度だけでは支援できません。

2 地方公共団体の役割

 基本法は、全て犯罪被害者は、個人の尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有する、と定め(3条1項)、犯罪被害者のための施策は、犯罪被害者が被害を受けたときから再び平穏な生活を営むことができるようになるまでの間、必要な支援等を途切れることなく受けることができるよう、講ぜられるものとして(同条3項)、国は、この基本理念にのっとり、犯罪被害者のための施策を総合的に策定・実施する責務を有し(4条)、他方で、地方公共団体も基本理念にのっとり、国との適切な役割分担を踏まえて、地域の状況に応じた施策を策定・実施する責務を有する(5条)と定めています。
 地方自治法1条の2第1項は、地方公共団体は住民の福祉の増進を図ることを基本とし、同2項は、住民に身近な行政はできる限り地方公共団体にゆだねることを定めていることからすれば、具体的な犯罪被害者支援は、地方公共団体がその中心になることが、国との間での適切な役割分担といえます。

3 市町村と都道府県の役割分担

 市町村は、住民にとって最も身近な存在であり、かつ各保険医療・福祉制度の実施主体であることから、一次的な相談窓口として、犯罪被害者からの相談や問い合わせに対応し、具体的な支援を実施するのにふさわしい存在です。一方、都道府県も、市町村と同様に犯罪被害者からの相談等に適切に対応するほか、市町村の連絡調整・支援、都道府県域全体にまたがる関係機関・団体等への情報提供等を行うことが期待されます。

4 現在の制定状況

 こうした犯罪被害者支援を実効的に行うために、地方公共団体において犯罪被害者支援条例の制定が進みつつあります。
 4月1日現在で、犯罪被害者支援に特化した条例(特化条例)を制定している地方自治体は、21都道府県、7政令指定都市、326市区町村で、都道府県内で全ての市町村が特化条例を制定しているのは、秋田、岐阜、京都、岡山、大分、佐賀の6府県です。東京都でも同日から特化条例が施行されました。
 しかし、愛知県においては、名古屋市が平成30年4月1日から特化条例を施行しており、一部の市町村で、いわゆる「安全・安心まちづくり条例」の中に犯罪被害者支援に関する規定を設ける等の対応をしていますが、ほとんどの市町村、また、愛知県では特化条例を制定していません。
 当委員会として、愛知県及び愛知県下の市町村において、特化条例を制定するように、働きかけを行っていきたいと考えています。