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~ファクタリング業者を名乗るヤミ金にご注意~

コロナ時代の消費者問題
~ファクタリング業者を名乗るヤミ金にご注意~

会報「SOPHIA」令和2年8月号より

消費者委員会 委員 黒 柳 良 子

《相談例》
 新型コロナウイルスの影響により収入が減り、次の給料日までどうやって生活するか困っていたところ、電子掲示板で、「給料の前借り感覚でご利用いただけます」「借金しないで即日現金が受け取れる」「ブラックでもOK」などと宣伝する"給与ファクタリング"なるものを知りました。
 来月の給与のうち5万円分をその業者に売れば、すぐに手数料を引いた3万円を振り込んでくれるというのです。来月の給料日に給与を受け取ったら、そこから5万円を業者に振り込めばいいということでした。
 業者に連絡したところ、免許証や保険証、通帳の写真をメールで送り、両親の連絡先を教えるようにということでしたので、言われたとおりにしたら、すぐに3万円を振り込んでくれました。
 私は、約束どおり翌月の給料日に5万円を振り込みましたが、それでは当然生活していけませんので、再度、翌々月の給与5万円を売り、3万円を振り込んでもらいました。
 そんなことを繰り返し、また、別の業者(3社)からも同じように給与を買い取ってもらい、何とか食いつないできましたが、今月はどうしても期限までに振込みができないでいたところ、自分や両親の携帯だけでなく、職場にも業者から頻繁に電話がかかってくるようになり、恐ろしくなって相談に来ました。

1 昨今、このような給与ファクタリングの相談が増えています。国民生活センターからも注意喚起がなされ、新聞でも「コロナ禍で経済的困窮を強いられている者の間で被害が拡大している」などと報道されています。
2 ファクタリングとは、一般に、他人の売掛債権を買い取り、自己の危険負担で代金回収を行う金融業務を指します。利用者にとっては、弁済期到来前の資金調達が可能となり、ファクタリング業者としても、安く仕入れた債権を満額回収することにより利益が得られるという点で、経済的合理性が見出されるものです。
3 《相談例》の給与ファクタリングも、形式的には給与債権の譲渡であり、金銭の貸付けとは区別されるもののように見えます。
 しかし、給与ファクタリングにおいては、譲渡されたはずの給与の受領権限が利用者に留保されています。すなわち、利用者は、第三債務者である会社に債権譲渡通知を行わず、引き続き債権者として振る舞うことが予定されており、譲受債権者である給与ファクタリング業者との関係では、譲渡済みの給与債権を代理受領したという形で、給料日以降に受け取った給与を引き渡すこととされています。
 お金の流れだけを見れば、利用者は5万円分の給与債権を担保に3万円を借入れ、次の給料日に手数料2万円を含めた5万円を返済していることになります。つまり、実質的には、(返済期日が1か月後とすると)月利40%すなわち年利480%という違法な金利での貸付けを行っているのと変わりありません。
 利用者本人だけでなく、家族や勤務先の連絡先を聞き出し、しつこく取立ての連絡をしてくるあたりはヤミ金さながらです。
4 もっとも、給与ファクタリング業者は、法人登記を備えて住所を公表しているところが多く、ホームページでは「借金ではない」などと強調しています。このように、業者がヤミ金との区別化を図り、合法な資金融通サービスであるかのように振る舞うことにより、顧客が気軽に手を出してしまうのかもしれません。
 弁護士が介入すると、後ろ暗いところがあるためか、取立てを止めておとなしくなる業者も少なからずある一方、「当社のファクタリングは債権譲渡ですので、貸金業の登録は不要ですし、利息制限法は関係ありません」などと粘る業者もあります。
5 給与ファクタリングの最大の特徴は、譲渡の対象が給与債権であるという点にあります。しかし、労働基準法24条1項が、賃金は直接労働者に支払わなければならないとしていることから、そもそも、ファクタリング業者は、給与債権の譲渡の有無に関わらず、第三債務者である会社から債権を取り立てることができません。
 そうであれば、ファクタリングとは名ばかりで、実質的には給与債権を担保にした貸付けに過ぎず、高額な手数料は利息そのものと捉えられるべきです。
 この点、金融庁も、このような経済的構造を捉え、給与ファクタリングは貸金業法2条1項及び出資法7条のいわゆる「金銭の貸付け」に該当するとの見解を示していますし(令和2年3月5日付「金融庁における一般的な法令解釈に係る書面照会手続(回答書)」)、同様の判断を下した下級審判決(東京地裁令和2年3月24日判決)もあります。さらに、日本弁護士連合会も、この解釈に基づき、令和2年5月22日付で、行政機関に対して給与ファクタリング業者の徹底的な取締りを求める会長声明を出しているところです。
6 以上のような解釈によれば、貸金業の登録を受けずに業として給与ファクタリングと称する資金融通サービスを提供することは、貸金業法に違反し、刑事罰の対象となります。
 また、民事上も、給与ファクタリングの手数料が年利換算で利息制限法の利率(年15~20%)を超えるときは、その制限超過部分は無効となり、さらに出資法の上限金利(年109.5%)を超えるときは、貸金業法42条により契約全体が無効となるため、利用者は、業者に対し、何らの契約上の支払義務も負わないと主張することが可能です。
 さらに、この場合、すでに受領した貸付金が不当利得となるかが問題となりますが、出資法の制限を大幅に超過する利率の場合、基本的には、不法原因給付として、その返還義務も否定されるべきものと考えられます。

7 ところで、労働者の給与債権を買い取る給与ファクタリングと異なり、事業者の売掛債権を買い取る「事業者ファクタリング」には、労働基準法の適用がありません。
 しかし、前記3で述べたとおり、給与ファクタリングにおいて給与の受領権限が利用者に留保されている(したがって、実は労働基準法の規定に関わらず、最初から業者から第三債務者に対する直接の取立ては予定されていない)のと同様に、事業者ファクタリングにおいても、譲渡されたはずの売掛金の受領権限が利用者に留保されているというケースは少なくありません。この場合、事業者ファクタリングもまた、その実質は限りなく貸付けに近いといえます。
 この点、金融庁も、「ファクタリング契約や売掛債権売買契約において、譲受人に償還請求権や買戻請求権が付いている場合、売掛先への通知や承諾の必要がない場合や、債権の売り主が譲受人から売掛債権を回収する業務の委託を受け譲受人に支払う仕組みとなっている場合は、ファクタリングを装ったヤミ金融の可能性がある」としています(金融庁HP「違法な金融業者にご注意!」https://www.fsa.go.jp/ordinary/chuui/)。
 したがって、事業者ファクタリングについても、労働基準法の適用がないからといって救済の対象から外すのではなく、その経済的構造を正しく理解した上で、貸金業法や出資法の適否を検討していく必要があるように思われます。