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「同一労働同一賃金の実現へ」講演会

水町勇一郎教授による
「同一労働同一賃金の実現へ」講演会

会報「SOPHIA」 平成29年1月号より

労働法制委員会 委員 上 山 孝 紀

1 はじめに

 今年度の労働法制委員会では、労働法制に関する講演会企画として、東京大学社会科学研究所の水町勇一郎教授を講師にお招きし、「同一労働同一賃金の実現へ」と題してご講演を頂戴しました。水町教授は、非正規労働者の待遇改善を徹底するための「同一労働同一賃金」原則の実現に向けた具体的方策を検討するために政府が設置した「同一労働同一賃金の実現に向けた検討会」や「働き方改革実現会議」のメンバーとして、様々な提言を行っておられます。折しも、講演会当日に、同検討会から中間報告が公表されたこともあってか、多くの会員に参加していただきました。

2 講演の内容

(1)「同一労働同一賃金」の意義

 まず、「同一労働同一賃金」というと、正規労働者についても一律に「職務給」への移行が求められると誤解されがちですが、今回導入が検討されているのは、我が国で正規労働者の賃金制度として広く採用されている職能資格制度に基づく「職能給」や成果主義賃金制度と相容れないものではなく、そうした既存の制度も前提としつつ、正規・非正規労働者間の不合理な待遇差(賃金だけでなく、福利厚生やキャリア形成等も含む)の解消を目指すものであるとの説明がなされました。

(2)欧州の法制度及び裁判例

 続いて、産業別組合と使用者が締結する労働協約に基づく「職務給」が従前より広く採用されてきたフランス、ドイツ等の欧州諸国において「同一労働同一賃金」の根拠とされている法令が紹介されました。そして、最近では、欧州でも純粋な「職務給」は時代遅れ(最低賃金的な位置付け)になってきており、労働の質やキャリアコース等の違いによる例外(追加手当の支給)が許容されていることや、裁判においても、そうした待遇差を設けることを正当化する客観的な理由として、業績・成果、勤続年数、キャリアコース、職業経験等の事情が個別具体的に考慮されているとの説明がなされました。

(3)早期のガイドライン策定の目的

 さらに、「同一労働同一賃金」を早期に実現するためには、法令の改正だけではなく、個別具体的な事例における判断の指針が有効と言えますが、裁判例の蓄積を待ったのでは時間がかかることが指摘されました。また、労使間の話合いのための十分な準備期間も不可欠であるため、法令の制定されていない早い段階から議論のベースとしてもらうべく、賃金だけでなく、福利厚生その他の給付項目ごとに基本的な考え方と典型的な事例を盛り込んだガイドライン案が策定されることになったとの説明もなされました。

3 おわりに

 本講演の翌週、「同一労働同一賃金」の基本的な考え方や典型的な事例が記載されたガイドライン案が政府から公表されました。
 しかし、労働契約法やパートタイム労働法等の改正の立案作業はこれからであり(平成31年度からの施行が予定)、具体例として未だ整理されていない事例もあることから、我々もクライアントに適切な助言ができるように、今後の議論の行方を注視しつつ(検討会や実現会議の議事録等は、厚労省や首相官邸のHPに随時掲載されています)、より一層理解を深めていく必要があると思いました。