会報「SOPHIA」 平成30年9月号より

名古屋大学法学部4年 三 井 みのり

 9月11日、名古屋大学法学部の宮木ゼミ(刑事法)の活動の一環として、愛知県弁護士会法科大学院委員会による模擬接見に参加しました。企画内容は、各種勾留事案(窃盗、覚せい剤所持、傷害)について、学生それぞれが弁護人役、被疑者役に分かれ、双方の立場から接見を体験するというものでした。

 これまで、検察庁での模擬取調べの経験はありました。しかし、模擬接見は、手元にある勾留状が唯一の手掛かりであり、既に一定の証拠が集まっている模擬取調べとは全くの別物でした。

 事前準備の段階では、弁護人として聴取すべき事柄のほか、仮に自分が被疑者だったら、「何に不安を感じるか」、「何を知りたいか」を考え、それらへの対応を自分なりに用意して本番に臨みました。しかし、いざとなると、「何を質問すべきなのか」、「どのように返答すべきか」は悩ましく、とりわけ、法曹倫理に関わる質問や要望は回答に窮することが多々ありました。

 接見後、直ちに行われた講評でも質疑応答はそれらの点に集中しました。対応は、弁護士間で多少の違いはあるものの、被疑者の質問や要望に対して、「曖昧にしない」という姿勢が一貫して感じられました。また、すべての対応に、法的な知識に裏づけられた明確な理由があることもわかりました。

 また、今回の模擬接見は、普段学んでいる刑事法の知識を、実務の場でどのように活用すべきかを改めて考える機会にもなりました。単純に知識として知っていれば足りるわけではなく、その知識をどのように被疑者に説明し、具体的なケースにどう活かしていくのかなど、事案や被疑者に応じて考えていくという今までにないアプローチで法律知識に接することができたからです。現に、個性のある各事例に対して、とり得る手段や活用できる法律知識をどれだけ想定できるかが今回の課題であり、苦戦したところでした。あらゆる可能性が考えられるからこそ、弁護士間でも異なる考え方が生まれるのであり、そこに弁護活動の可能性や面白さがあると思いました。

 接見は、限られた時間の中で、あらゆる可能性を想定し、ベストないしベターを選択する必要がある一方、必ずしも正解があるわけではない点に難しさがあり、想像していた以上に想像力や臨機応変な対応力、さらには決断力が求められるものでした。様々な事案において、被疑者との信頼関係の構築や責任ある弁護活動を行う上では、法的な知識に裏づけられた明確な指針を持つとともに、いかなる事態にも柔軟に対応できる幅広い人間力を身につけていく必要性があると考えさせられました。

 さらに、被疑者の話を上手くメモすることの重要性も痛感しました。メモが上手く取れていないということは、論理立てて話を聞くことができなかったことを意味し、反省すべき点です。また、メモは、後に弁護方針を決める際に利用するものであり、被疑者が論理立てて話をしていなくても、被疑者の話を整理してメモを取らないと意味がないからです。

 今回の模擬接見企画は、多くの気付きと弁護士の仕事の魅力や面白さを知る絶好の機会になりました。この経験を活かし、今後のゼミ活動や勉学に励んでいきたいと思います。最後になりましたが、このような模擬接見の企画・準備をして下さった法科大学院委員会の先生方、本当にありがとうございました。