会報「SOPHIA」 平成30年9月号より

犯罪被害者支援委員会 委員 長谷川 桂 子

 8月22日から30日まで、性暴力救援センター日赤なごや なごみ(名古屋第二赤十字病院所在)の皆さんとアメリカ・オレゴン州ポートランドを訪問し、DV・児童虐待の支援等について視察をしてきました。当会からは、両性の平等に関する委員会の犬飼千絵子会員、都築さやか会員、子どもの権利委員会の間宮静香会員と私が参加しました。  

 多くの視察先がありましたが、今回は、「ダギーセンター(The Dougy Center)」というグリーフケアを行っている施設について報告をします。

1 施設概要  

 ダギーセンターは、1982年に全米で最初に設立された、親しい人を喪った子どもたちや家族のための施設です。人は喪失体験をするとグリーフ(悲嘆)という感情を経験しますが、子どもたちが安全に安心してグリーフの感情と向き合い、またグリーフを発散することができる場を提供している施設です。名前は、脳腫瘍で13歳で亡くなったダギーという少年にちなんでいます。

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 公的な助成を受けず、企業や個人からの基金、寄附により民間団体が運営しており、無料で利用できます。プログラムに関わる常勤スタッフは7人(全員が人文社会学の分野の修士号を取得)おり、スタッフと非常勤の無償ボランティア約260人でサービスを提供しています。ボランティアは年齢に応じたグリーフへの向き合い方、コミュニケーションの特質、子どもたちへの接し方などの研修を受け、また、毎回のケアの前後にも1時間ずつミーティングをしています。

 センターの役割が地域に浸透しているため、子どもたちは学校、病院、その他様々なルートからここへ繋がって来ます。最近はニーズがあることから対象を若者たちにも広げており、現在は3歳から30歳が対象です。

 子どもたちは2週間に一度、1時間半をここで過ごします。年齢や死因(病気、突然死、自死、殺人など)、亡くなった人との関係(親、兄弟)別にグループに分けられ、現在毎月約500人の子どもたちが通っています。

 子どもたちがケアを受けている間、2階の部屋で、付き添ってきた大人たちもお互いに話し合ったりして過ごしています。

2 基本方針  

 ダギーセンターの基本的な考えは、グリーフは喪失体験の後に起こる自然な感情であり、病気ではなく、現れ方は1人1人異なり、その影響、持続期間もそれぞれ異なる、子どもたちは自分に必要なことは何かを分かっている、というものです。通う期間も子どもたち自身が決めます。子どもたちの発達レベルに応じて物事を選択できる環境を作り、何回も選択することにより、自分の人生を自分でコントロールできる感覚に繋がるということです。

3 設備

 クリニックなどを連想させないよう、建物内は家庭的な雰囲気作りが工夫されています。

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 暖炉があるリビングのような待合室に続いて、ケアで使用する部屋が並んでいます。キッチンやダイニングがあり、亡くなった人が好きだった料理を持ち寄り、パーティーをすることもあります。

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4 ケアの内容

 子どもたちはまず、年齢別に3つ用意されているトーキングルームと呼ばれる部屋に集まり、互いに自己紹介や亡くなった家族の話などをします。

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その後は好きな部屋で遊びます。小さい子どもには2人に1人、10代の子どもには5~6人に1人ボランティアスタッフが付き添って見守ります。

 グリーフを抱えている子どもは、時として大きなエネルギーの発散が必要なことがあるため、センターでは、ポジティブな形で遊びながら発散ができる工夫を各部屋で行っています。音楽室には木琴、ピアノ、太鼓などの打楽器が用意され、美術室には、ペンキを壁に向かって投げつけることのできるコーナーもあります。

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 体を使った遊びやゲームができる部屋、床や壁が柔らかいクッション素材で覆われ、体をぶつけたり、上から飛び降りても安全な火山の部屋と呼ばれる部屋もあります。

 病院の部屋もよく使われるそうです。ある子どもは、母親が癌で亡くなったことは理解していましたが、なぜお医者さんが治してくれなかったのかが理解できなかったそうです。

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 毎回ボランティアを患者役にして、「この薬を飲めば治りますよ」「注射したら治りますよ」とお医者さんごっこを繰り返した後、ある時「ごめんなさい、あなたを治せません、あなたは死にます。」と言って、次からは別の遊びをするようになったそうです。ここでは子どもたちの遊びはその子どもに必要なことだと考え、危険がない限りボランティアは制限をしないそうです。

 劇場の部屋には舞台、衣装、小道具、客席があり、子どもたちは自分の抱えているグリーフを表現します。

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 10代の若者はトーキングルームで話をしていることが多く、たまに美術室に行き作品を作ったり、外のバスケットコートでバスケをしたり、亡くなった人が好きだった音楽を演奏したり、グリーフの過程で自分が癒された歌や自分が作った歌を歌ったりするそうです。

5 センターの役割

 センターはグリーフケアの先駆的な存在であることから、地域でのケアの他に、世界中から研修を受け入れたり(私たちもそうです。)、研修プログラムを作ったり、グリーフケアについての様々な教本、ビデオ、子ども達がグリーフと向き合う助けとなる絵本、書籍などを出版しています。