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包括的性教育についてのランチタイム勉強会が開催されました


日時 10月16日 12:00~13:30
場所 弁護士会館4階会議室
講師 名古屋市中央児童相談所
   大 野 由香里 児童福祉司
   新 田 朗 子 保健師
   丸 山 洋 子 児童精神科医

両性の平等に関する委員会 委員 砂  原   薫

1 両性の平等に関する委員会では、高校生を対象にデートDV防止出張授業を実施していますが、より低年齢の子どもを対象とした包括的性教育の必要性を感じています。そこで、10月16日、名古屋市中央児童相談所(以下、「児相」といいます)の児童福祉司、保健師、児童精神科医の方々をお招きし、児相において児童を対象に行われている性教育についてお話をいただきました。

2 児相では、就学前から高校生までの年齢の子どもを対象に、包括的性教育を行っています。児相には、性被害を受けた子どもや性非行等の問題行動のある子どももいますが、どのような内容の教育プログラムを実施するのかは、それぞれの子どもの問題や背景・事情に応じて考えられています。保健師や警察OB、児童福祉司、児童精神科医等、様々な立場の人たちが関わって、包括的性教育は実施されています。

3 児相の包括的性教育には多様なプログラムが用意されています。中でも、「境界線」に関するプログラムについては、人との距離感や関係性に課題のある子どもが少なくないため、どの年齢層の子どもにも実施されます。  児相での包括的性教育の実施にあたっては、障がいや発達特性を問わず誰でも理解できるように、視覚教材を用いた工夫がなされています。  例えば、フラフープの輪を、自分を守る柵(境界線)に見立てて、身体的暴力や精神的暴力、グルーミング等について視覚的に理解できるようにした教材があります(写真1)。 包括的性教育ランチタイム勉強会01.jpg      (写真1)フラフープの輪を、自分を守る柵(境界線)に見立てた視覚教材。

 この教材を使って、他人を自分のフラフープの中に閉じ込めて身動きが取れないようにすることで、他人の境界線を越えてコントロールする暴力の構造を、視覚的に理解することができます(写真2)。 包括的性教育ランチタイム勉強会02.jpg (写真2)他人を自分のフラフープの中に閉じ込めて身動きが取れないようにすることで、他人の境界線を越えてコントロールするという暴力の構造を、視覚的に理解することができる。

 暴言等の精神的暴力については、他人のフラフープの外からいがぐりを投げ込むようなもので、身体的暴力と同様に境界線を壊すものだと説明されています。子どもたちには、できるだけ早い時期に暴力に気付いて誰かに相談できるように、「柵が壊されたらお話ししてね」と伝えているそうです。  また、中心から外側に向かって緑色、黄色、赤色の同心円になったマットの視覚教材があります。このマットの中心に立つと、緑色はとても親しい人、黄色はよく知っている人、赤色はよく知らない人、というように、それぞれの人との距離感を認識することができます。緑色の距離感にあるような親しい人でも、相手が怒っているときは赤色の距離感になるなど、相手や状況によって、人との距離感が変わるということも、視覚的に理解できるようになっています(写真3)。 包括的性教育ランチタイム勉強会03.jpg (写真3)中心から外側に向かって緑色、黄色、赤色の同心円になったマットの視覚教材。相手や状況によって、人との距離感が変わるということを、視覚的に理解できる。

 さらに、男女の身体の違いや月経・射精の仕組について、具体的に理解できるエプロン等の教材が用いられています。男性の身体のエプロンについては、生殖器の部分が半分に割れる作りになっており、生殖器の構造を確認することができます。生殖器の構造を確認し、月経や射精の仕組を視覚的に伝えることは、思春期の男女だけではなく、月経や射精が始まる前の子どもたちにとっても、大切なことです。  その他にも、子どもたちが最新の正しい知識を持って自分で判断し、そして、困ったときに誰かに相談できるようになることを目標に、様々な工夫が重ねられています。

4 児相での包括的性教育を通して浮上してきた課題としては、まず、子どもたちの圧倒的な情報過多の中で正しい情報が不足していることが挙げられます。子どもたちは、正しい情報にたどり着けず、誤った情報を修正する機会のないまま成長してしまうことも少なくないため、正しい情報を得る機会が非常に重要になります。  また、「NOが言えない女子、NOと言われないと止まれない男子」というジェンダーの問題もあります。嫌なことにはNOと言ってよいこと、NOと言われなくても相手を慮ることが大切であることを、子どもたちに理解してもらう必要があります。 さらに、付き合う=セックスと理解してしまうなど、人との距離感がわからない子どもたちが少なくないという問題があります。子どもたちが、自分で考えて人との関係性を築いていけるようになることも重要です。

5 今回のランチタイム勉強会は、包括的性教育の具体的内容や課題について理解する大変貴重な機会となりました。当会でも、将来的には、包括的性教育を盛り込んだ出張授業を行いたいと考えています。