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時を隔てた二つの死刑再審事件から、 死刑冤罪を考える

死刑廃止を考える日2022
時を隔てた二つの死刑再審事件から、 死刑冤罪を考える

死刑制度廃止委員会 委 員 松 本 登 志 也としや

1 はじめに

令和4年1217日、「死刑廃止を考える日2022」と題して、第一部で映画「帝銀事件-大量殺人-獄中三十二年の死刑囚」の上映と、第二部で袴田事件で犯人とされた袴田巖さんの姉の袴田秀子さんと角替清美弁護士(静岡県)による講演が行われました。会場には、弁護士のみならず一般の方にも数多くご参加いただき、盛況となりました。

 映画の上映

本作品は、1948年1月26日午後3時頃、帝国銀行椎名町支店に現われた男が、行員らを騙し12名を青酸カリにより毒殺し、現金と小切手を奪った「帝銀事件」の真相に迫った映画です。

その中では、帝銀事件の犯人とされた平沢貞通さんが警察官によって手錠を付けたまま、長時間にわたり非人道的な取調べにより自白が強要される過程が描かれていました。他にも、警察官が、帝銀事件の生存者に対して面通しをする際に、平沢さんが犯人であることを印象づけるために「座るんだよ人殺し」「貴様のようなものは嬲り殺してもいいんだぞ」と面通しの証人の前で犯人と印象づける捜査が描写されていました。このような捜査方法は、当時の刑事の常套手段として行われていたと解説されており、改めて自白の偏重による弊害について考えさせられる描写でした。

また、裁判においては、客観的な証拠が皆無であり、平沢さんが犯人であることにつき数多くの矛盾があるなかで、有罪認定(死刑判決)がなされている様子が描かれていました。

3 袴田秀子さんのご講演

映画の上映後、巖さんの無実を信じて闘ってきた姉の秀子さんのお話をうかがいました。

巖さんは、釈放されるまでの長期間、隣の部屋の死刑囚が死刑を執行されるなか、自分も明日死刑を執行されるかもしれないという極限状態の中で生活していました。そのためか、巖さんは釈放後5年間、ほとんどしゃべらず、笑うことも少なかったとのことでした。

秀子さんは、冤罪によってかけがえのない日常生活を奪われることの不条理さ、死刑制度の廃止について訴えられていました。

4 角替清美弁護士のご講演

秀子さんのご講演に続き、袴田事件弁護団の角替清美弁護士より、事件の概要と現状についてご講演いただきました。

講演では、巖さんが犯人であることを裏付ける唯一の物証、「5点の衣類」を中心に解説していただきました。5点の衣類は、事件発生から1年2か月後に工場の味噌タンクから「発見」されたもので、不可解な点が数多くあり、捜査機関による捏造が窺わせる形跡等があるとのご説明をいただきました。

なお,講演後の令和5年3月13日,東京高裁で再審決定が出されました。今回は検察官が特別抗告を行わなかったため,確定し,ようやく再審決定後の裁判が開始されます。今回の再審決定に至るまでには,事件発生から56年,最初の開始決定から約9年もの歳月を要しました。冤罪被害者の速やかな救済のためにも再審制度の改正が期待されます。

5 おわりに

帝銀事件及び袴田事件は、いずれも客観的証拠が乏しいなかで、被告人の自白に依拠して死刑判決の言渡しがなされた事件です。冤罪の存在は死刑制度廃止論の重要な根拠とされていますが、2つの事件を通じて死刑制度自体の問題を深く考える機会となりました。