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~デートDV防止出張授業「尊重し合う恋愛関係」実施報告~

ジェンダー平等の実現は、デートDV防止から
~デートDV防止出張授業「尊重し合う恋愛関係」実施報告~

両性の平等に関する委員会 デートDVチーム チーム長 都築 さやか

 

1 デートDV防止出張授業「尊重し合う恋愛関係」の実施
 両性の平等に関する委員会では、デートDV防止に関する出張授業を、名古屋市をはじめとする愛知県尾張地区の高等学校を対象に、令和3年から本格的に実施している。
 デートDVとは、婚姻していない交際関係で発生するDVのことをいい、デートDVの被害は、中学生、高校生、大学生の交際関係でも多く発生しており、深刻な被害実態が報告されている。
 内閣府の令和2年度「男女間における暴力に関する調査」においては、交際経験のある女性のうち、デートDVの被害経験がある女性は16.7%、うち同居期間中にデートDVの被害経験がある女性は39.2%、配偶者からのDVの被害経験がある女性は25.9%という数字が発表されている。
 さらに、あるNPOのデートDVの予防教育を受講した、1都10県の中学生・高校生・大学生2868人を対象に、平成28年10月~12月に実施した調査結果では、交際経験のある女性のうち、デートDVの被害を1つでも受けた人の割合は、44.5%にもなるという報告もある(認定NPO法人エンパワメントかながわ「デートDV白書vol.5」)。
 中高生を対象にデートDV防止出張授業を実施することで、DVの実態や問題点、対応方法等を、恋愛関係に関心を持ち始める中高生の常識としていくことができれば、DVが蔓延する社会を変えていくことに繋がるのではないか、そのような思いから、まずは名古屋市等愛知県尾張地区の高等学校を対象に、デートDV防止出張授業を実施し始めた。


2 デートDV防止出張授業の特色
 デートDV防止出張授業のテーマは、「尊重し合う恋愛関係」である。
 UNESCOによる国際セクシュアリティ教育ガイダンス(改訂版)において、包括的セクシュアリティ教育(セクシュアリティの包括的教育であり、健康と幸福、尊厳を実現し、尊重された社会的、性的関係を育てること等を目的としている)の根本要素として、人権的アプローチに基づくこと、ジェンダー平等を基盤にすることが挙げられている。
 そのため、デートDV防止授業の内容としても、人には誰しも人権が保障されていること、尊重するとはお互いの人権を大切にすることを意味するがDVは人権を侵害すること、DVの構造的要因は女性差別の残る社会構造や性別役割分業等であることを伝えている。そして、自分が不安に思う気持ちを押し殺さずに大切にすることが大事であるということ、尊重し合う安全な恋愛関係の構築について伝えている。


3 デートDV防止出張授業の実施状況
 令和3年に本格的に対象地域の高校にチラシを郵送したところ、7校から申込みがあり、1校につき担当者1名、合計5名の弁護士(一部は複数学校を担当)が出張授業を行った。内1校は高等特別支援学校であり、事前に学校側との打ち合わせを行い、学校側のニーズや生徒の理解力の程度等を確認した上で、他機関で障害児に実施している性教育も参考にして、よりわかりやすい内容になるべく授業を工夫した。
 授業構成は、50分のパワーポイントによる授業、その後、学校によっては、生徒にデートDVのある会話例の実演をしてもらい、会話のどの点が被害者の立場からすると嫌だと感じるのかを検討してもらった。

ジェンダー平等挿入写真2.JPG

(出張授業の様子を許可を得て掲載)


 以下に、担当した久野由詠会員と野田葉子会員からの実施報告を掲載する。


4 実施報告①(久野由詠会員)
 県内の公立高校(共学)にて、体育館に集合した全校生徒に向けて、「人権講話」としてデートDV防止授業を行った。
 話をする際に意識したのは、①性別にかかわらず加害者にも被害者にもなる可能性があることを念頭に置く、②異性愛に限らない表現(例:男女関係→恋愛関係)を用いる、という点である。
 特に①は、統計上も実務感覚上も、「男性から女性への暴力」をイメージして話しがちだが、それを女性である自分が話すことで男子生徒に反発される懸念があったため、伝えたいことが少しでも生徒たちに届くようにと願って、話し方に注意を払った。
 時間の都合上、「尊重のない/ある会話例」の実演ができなかったので、講演の中で暴力的言葉や態度の紹介をした。
 講演内容は抽象的な概念も多くて難しいのではないかと若干心配だったが、実施後、生徒たちから、「境界線を大事にして日頃過ごしたいと思った」「相手の気持ちを尊重し、適度な距離を保ちお互いが安心して関係を築いていくことが大切だと分かった」「しっかり関係を作った人と理解し合い、話し合うことが大切だと思った」「デートDVという言葉を初めて聞いた。絶対にやってはいけないことだと思った。気をつけたい」といった感想を複数いただき、若い世代へのこの授業の重要性を再認識した。


5 実施報告②(野田葉子会員)
 令和4年11月24日に犬山南高等学校、12月9日に犬山高等学校にて、デートDV防止出張授業を行った。
 犬山高等学校での授業は定時制の生徒を対象として行ったが、これまでDVの授業等は実施したことがないとのことだったので、DVが誰にでも起こりうる身近な問題であることや、どんなことがDVになるのかなどを中心にお話しさせていただいた。
 とてもおとなしい生徒さん達でリアクションが薄かったので、どこまで話が響いたのか不安だったが、少しでもデートDVについて考えるきっかけになれば良いと思う。
 犬山南高等学校は、最近性教育に取り組み始めたとのことで、今回のデートDV防止授業も性教育の一環として応募してくださったとのことだった。
 養護教諭の方々が大変熱心で、学校で性に関するアンケートを実施したり、2年前にも性教育の授業のために外部講師を招いたりしていたそうである。
 今回も、「尊重のない会話例・ある会話例」の実演を演劇部の生徒さんに頼んでくださり、当日までに生徒さんが何度も練習して、素晴らしい実演を見せてくださった。おかげで授業は大変盛り上がり、受講した生徒さん達の印象に残ってくれたのではないかと思う。
 担当教諭の方から生徒さんの現状を聞く限り、高校生になってからではやや遅い感があったので、今後は中学生向けのデートDV防止授業の実施もしていきたいと強く感じた。


6 今後の方向性
 野田会員の実施報告にもあるが、デートDVチームとして、より早い時期にデートDV防止出張授業を行っていくことが必要であるという意見で一致しており、来期は中学生を対象としたデートDV防止出張授業の実施に向けて準備を進めていきたい。