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ドキュメンタリー映画「ワタシタチハニンゲンダ!」を見て

国際人権最前線
ドキュメンタリー映画「ワタシタチハニンゲンダ!」を見て

会報「SOPHIA」 令和4年10月号より

人権擁護委員会 国際人権部会 部会員

大嶋 功

1 本邦に在留する外国人の人権が、きわめて脆弱なものであることは、外国人事件にかかわる弁護士には、共通の認識だと思う。

 ドキュメンタリー映画「ワタシタチハニンゲンダ!」(2022年公開・高賛侑監督)では、日本政府と本邦に在留する朝鮮・韓国国籍の方々の歴史に始まって、憲法の教科書でもおなじみのマクリーン判決、技能実習生制度、朝鮮学校の高校授業料無償化対象からの除外、ヘイトスピーチ、難民認定、入管における収容や処遇等の様々な外国人の人権にかかわる問題が多くの当事者、支援者、弁護士等からの取材に基づき明らかにされている。

2 映画の中でも紹介されている池上努元法務省入管局参事官が1965年に執筆した書籍「法的地位200の質問」の中には、本邦に在留する外国人の処遇は、「日本政府の全くの自由裁量に属する」ので、「煮て食おうと焼いて食おうと自由」という記載があり、当時の外国人の人権保障の実態と日本政府の認識がうかがわれる。

 そして、このような外国人の人権保障の実態と日本政府の認識が、現在においてもさほど変わっていないというエピソードとして令和3年3月に、名古屋入管に収容中であったスリランカ国籍の女性ウィシュマ・サンダマリさんが亡くなった事件や、難民不認定だった事実をチャーター機による強制送還の前日まで告知せず、裁判を受ける権利を奪ったとされる事件(令和3年9月22日東京高裁違憲判決参照)等が紹介され、現在でも、外国人の人権保障どころか、人権侵害が発生している状況であることが明らかとなっていく。

 特に、入管の収容施設内でカメルーン国籍の方が、助けを求めているのに放置されている監視カメラ映像は、その後に死亡したことがわかっているだけに、直視できないほど辛い気持ちになった。

3 日本政府は、外国人との多文化共生を推進していくことを目指している。

 総務省によると、多文化共生は「国籍や民族などの異なる人々が、互いの文化的ちがいを認め合い、対等な関係を築こうとしながら、地域社会の構成員として共に生きていくこと」と定義され、外国人と共に生活する日本人の意識が重要な要素となる。

 そして、外国人に対する日本人の意識が、法や日本政府の政策にも反映しているのであって、現在の外国人の人権保障状況は、日本人の意識を反映したものであるとも言えよう。

 「我々は労働力を呼んだが、やってきたのは人間だった」スイスの作家マックス・フリッシュが50年以上前に述べた言葉である。

 今後、本邦に外国人を受け入れるのであれば、同じ「人間」として、日本人と同様の人権が保障されることが前提とならなければならない。それが多文化共生の第一歩だと思う。

4 残念ながら、「ワタシタチハニンゲンダ!」は、本稿が掲載されるころには、映画館での上映期間は終了している可能性が高い。今後、動画配信や再上映の機会があることを期待している。

 弁護士法1条1項の「基本的人権」の意味を考えるためにも、この映画の配信や上映がされていないか、インターネット検索等していただいて、機会を逃さず、ぜひご鑑賞いただきたい。