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すべての人に役割を~長澤幸祐会員~

連載 弁護士とプロボノ活動(7)
すべての人に役割を~長澤幸祐会員~

会報「SOPHIA」令和3年11月号より

会報編集委員会

 長澤幸祐会員は、豊田市で事務所を経営しつつ、NPO法人ほっとほーむよっといでん(主に高齢者デイサービス事業、地域交流事業、多世代交流事業を行う団体)の監事のほか、青少年育成を目的とするNPO法人豊田てらこやの理事等を務められているところ、令和2年から、高齢者や障がい者と共に麦を栽培してストローを作る団体「THREE BARLEYS」にも関与されているとのことでしたので、お話を伺いました。

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■THREE BARLEYSとは、どのようなことをする団体ですか。
 麦を栽培し、麦わらからストローを作ることを目的としている団体です。その生産過程で、要介護、要支援の高齢者や、障がい者に麦の栽培、収穫からストロー作りまでを行ってもらい、将来的には主に飲食店向けにストローを販売していきたいと思っています。

■そのような団体に関与することになったきっかけを教えてください。
 長男は、自閉症で重度知的障がいがあるのですが、長男に限らず、重い障がいがある人でも社会的な役割を持てるようにしたいと思い、何かできないかと考えていました。
 そんなとき、令和2年の夏頃だったと思いますが、時々行っているバーのバーテンダー吉田さんから、「カクテルに使うために麦からストローを作ったのだけど、カットして葉を取るだけの簡単な作業なので、長澤さんのお子さんでもできるのはないか」と言われ、実際に試してみると、本当に簡単にストローが作れました。そこで、一緒に麦から栽培することを決めました。
 すぐに、農業と福祉を連携させて農業を営んでいる知人の今枝さんに連絡して、メンバーになってもらい、高齢者や障がい者に作業をしてもらって麦からストローを作るTHREE BARLEYSを立上げるに至りました。
 現在は、当初の3人のメンバーに限らず、「ほっとほーむよっといでん」を始め、多くの人に関わってもらっています。ただ、事務局らしいものがあるわけではなく、もちろん私の事務所が事務局ということでもありません。お問合せは、メールでいただいているという状況です。

■THREE BARLEYSには、どのような思いがありますか。
 社会には、障がい等のために、何かやりたくても役割を持てない人がいます。私は、そのような人たちにも社会的な役割を持ってもらえればと思っています。
 農業の経験はありませんが、農業には数多くの作業があるので、多くの人に役割を作れるのではと考えました。そして、麦には実だけではなく、茎は帽子や手芸品にしたり、飼料や肥料にもなるなどすべての部分に役割があります。麦ストロー作りにも、麦を育てる過程やストローを作る過程にいろいろな作業があり、それらの作業で高齢者や障がい者に役割を担ってもらえるのではないかと思っています。

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■麦からストローを作るということですが、具体的にはどのような作業工程になるのですか。
 11月か12月に畑に種を蒔き、翌年5月くらいに麦を収穫します。麦を収穫した後は、乾燥させて、茎がストローになりますので、茎の部分を適当な長さにカットして、ストローにしていきます。

■畑は、どのくらいの広さなのですか。
 昨年は、畑の一角を間借りして、20mくらいの畝を3つ作りました。
 秋に種を蒔くと12月下旬には芽が出てくるのですが、年末と年明けに芽を踏む麦踏をします。そうすると、芽が強くなるんですよ。また、口に入れるものなので、肥料や農薬も与えません。

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■どのくらいの時間を費やしておられますか。弁護士業務との両立はいかがでしょうか。
 麦踏をした後は、ほとんどすることはありません。麦は強いので、勝手に育ちます。畑に様子を見に行くことはありましたが、麦を立ち枯れさせて収穫するまでの間、ほとんど作業はありませんでした。
 ですので、それほど時間は費やしていません。週に一日くらいでしょうか。麦踏も土日に行いましたし。
 でも、収穫だけは天候に左右されますので、日程のやりくりが大変な時はありました。平日の午前中に収穫をして、ドロドロのまま裁判所に行って着替え、裁判が終わったら、着替えてまた畑に行った、ということもありますよ。

■麦は特殊な麦なのですか。
 今年育てて収穫した麦はライ麦です。実も何かに使えるといいのですが、今回の品種は茎は強いけど実は美味しくない品種なので、実は食用にはせず、飼料用にしました。

■麦踏や収穫は大変ではないのですか。
 麦踏や収穫の作業のときには、高齢者や障がい者に参加してもらいますが、収穫の際の刈取り作業も、それほど手間はかかりません。皆さん、楽しそうに作業をしていますよ。高齢の人は、「懐かしい」と言いながら作業をしていますね。土いじりや農作業が楽しいみたいです。

■収穫してからはどうするのですか。
 収穫してからは、風通しが良くて雨がかからないところで麦を乾燥させることが必要になります。機械で乾燥させることはできず、天日で自然乾燥させる必要があります。
 乾燥させる場所としては、畑の横にビニールハウスでもあれば雨もかからず刈り取った麦を運ぶ手間も少なく茎を傷めないのでいいのですが、間借りした畑ですのでそのようなものはありません。そこで今回は、福祉事業団が管理しているプールを借りました。このプールは、「よっといでん」の関係者が見つけてくれたものです。豊田市の福祉事業団が15年以上使っていないプールだったので、無料で借りることができました。

■今回の収穫が初めての収穫でしたが、どのような苦労がありましたか。
 今年は雨が多かったため、なかなか麦が立ち枯れせず、また天日で干すことができずにプールを手配せざるを得なかったところが苦労したところです。

■財政面はどのようにされているのでしょうか。
 経費は、私と「よっといでん」で負担しています。と言っても、畑は無償で借りていますし、参加者もボランティアでやってくれていますので、経費としては、種代と、麦を干す「稲架(はさ)掛け」(刈り取った麦などを天日で干しておくために掛けておく棒など)の費用くらいです。年間で数万円くらいでしょうか。
 今年は難しいと思いますが、将来的には製品化したストローを販売して収益が出るようにしたいです。

■脱プラスチックの風潮もありますので、プラスチックストローの代替品については需要がありそうですね。
 もともと脱プラスチックを目標として取り組み始めたものではありませんが、全国の麦生産者等に声をかけて麦ストローを集めようとしているビール会社もあります。
 THREE BARLEYSの活動には福祉的な面もありますが、みんなが欲しがる品質の良いもの、かっこいいものを作りたいと思っています。そのため、パッケージもプロに依頼してデザインしてもらっていますよ。
 あとは、販売方法についても考えなければならないと思っています。今回は1万本以上の麦ストローが完成する予定で、麦ストローを使いたいという飲食店から連絡ももらっていますので、飲食店に販売する予定ですが、できれば、飲食店に限らず、広く使ってもらいたいと思っています。ただ、麦ストロー1本当たりの値段は数十円になると思います。そうすると、ストロー単体での購入を考えると、1本当たりの値段がどうしても意識されて気になりますよね。でも、例えば、バーで1杯1,000円のカクテルを頼んだとして、そのカクテルに数十円の麦ストローが付いてくるのは気にならないと思います。また、飲料品に付いてくるものであるとか、お酒のグッズとしてということであれば、ストローの値段はそれほど気にならないと思います。ですので、製品化したストローの販売方法も検討する必要があります。
 また、10月10日に豊田市駅前で開催されたマルシェに麦ストロー作り体験のワークショップを出店しました。
 麦をカットする体験は、主に子どもたちに行ってもらったのですが、子どもたちも周りの大人たちも、本当に簡単にストローができることが不思議なようでとても驚いていました。現代では、麦に触れ、ストローを作り、それを使って飲む経験は、簡単にはできないので、心に残るとても良い機会を提供でき、また、活動を知ってもらう良い機会になったと感じています。

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■次回に向けて、これからいろいろ考えなければならないことがありそうですね。
 そうですね。11月か12月には次の収穫に向けて種を蒔く予定なのですが、できれば、畑の一部を間借りするのではなく、きちんと1面借りたいですね。生産量を増やしたいという目的もありますが、面積を広くして麦踏や収穫の時に多くの人に参加してもらいたいですし、そういう時は子どもが来て走り回ったりして他人の畑に迷惑をかけたりするので、広い畑が借りられたらと思っています。また、口に入れる麦を育てますので、他の畑の農薬の影響を受けたくないということもあります。畑は、山間部に行けば広い土地を安く借りられるのですが、そうすると、街中からは遠く、高齢者や障がい者に気軽に参加してもらえなくなってしまいますので、難しいところです。この点は、豊田市の農業振興課、JAあいち豊田や農家さんなどに相談しています。
 種蒔きは、本来は畝の筋に沿って蒔くのですが、昨年は筋を気にせずに蒔いてしまいました。しかし、筋を気にせずに蒔くと、一部分に麦が密集して生えたりして、生長がばらばらになって間引きをする必要があったり、また、収穫の時に刈り取るのも大変ということがよく分かりました。ですので、次回は筋に沿って種を蒔こうと考えています。刈取りについていえば、刈った麦を束ねる機械の導入を考えており、現在探しています。
 あとは、干す場所の確保も課題ですね。先ほども言いましたが、なるべく畑の近くで干せたらと思っていて、畑の近くに使っていないビニールハウスがあるとベストなのですが。
 干してからのストロー作りについても、麦のカットや煮沸消毒、梱包等のための作業をする場所の確保や、効率よく作業する方法はないか模索しています。麦のカット一つとっても、はさみでカットするのがいいのか、麦の断面を傷めないために他の方法でカットした方が良いのか考えています。紙を裁断する道具がありますけど、あれだと子どもが行うのは危険なんです。

■弁護士として活動に参加していてよかったと思うことはありますか。
 弁護士の肩書があると、行政や地域の人の信頼を得やすく、話がスムーズに進みやすいということがありますので、この点はよかったと思います。ただ、この活動から弁護士の仕事に繋がったことはありません(笑)。もっとも、弁護士業務を離れて気分転換をすることにもなりますので、メンタルヘルスの点では良い効果になっていると思います。

■THREE BARLEYSとしての今後の目標を教えてください。
 昨年始めたばかりですし、まだ収益がありませんので、今は任意団体です。しかし将来的には、大規模化して麦ストローの質を高め、収益化できるようにして、いずれは法人化したいと思っています。事務局的な人をお願いできるようになればと思っています。
 せっかく麦を作っているので、ビールやウイスキーの製造に向けても何かできないかと思っていますが、酒税法の壁が・・・。

■長澤会員は、複数のNPO法人の監事や理事、委員にも就任し、麦ストローにもTHREE BARLEYSで関与され、幅広く活動しておられますが、他にも考えておられることはありますか。
 麦を育てている畑は養豚場から借りているのですが、その養豚場では、ヒマワリの種を餌として与えて、ひまわりポークという豚を育てているんです。今は餌になるヒマワリの種は業者から購入しているとのことですが、これを自分たちで生産しようと考えています。ヒマワリを育てるのにそれほど手間はかかりませんので、高齢者や障がい者、子どもに育ててもらい、それを養豚場に購入してもらって豚に与え、その時に養豚場の人から、子どもたちに命の循環等の食育の話をしてもらえたらと思っています。自宅のプランターでひまわりを育ててみましたが上手くいかず、麦同様に畑の確保等の課題はあります。

■本当にいろいろなことを考えていらっしゃいますね。
 誰でもできるけど、あまり誰も手を付けていないものを見つけていって、それをたくさん集めれば、いろんな人が、納期とかに縛られることなく、やりたいときにやりたい作業ができるようになるのではないかと思っています。それが収益になればなお良いですね。そうすると、高齢者や障がい者に限らず、健常者も参加できるようになり、すべての人に役割を持ってもらえますし、健常者にもいろいろな生き方を考えてもらえるきっかけになるのではないかと思っています。
 豊田市ではみんなが地域に根差した活動をしており、人のつながりが濃い町なので、これをやりたいと思って誰かに言うと、そのことに詳しい人を紹介してもらえますし、町としての規模は大きいので、大抵のことは詳しい人につながることができます。なので、いろいろなことに取り組むには適した環境だと思います。

■本日は、長時間にわたり、ありがとうございました。日々、弁護士業務に追われている身からすると、確かに、土いじりや農作業等をして自然と触れ合い、また、社会的にも有意義な時間を過ごしてみたいと思うようになりました。