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~県が犯罪被害者支援条例(特化条例)を制定する意義と、制定後の運用の課題~

犯罪被害者等支援条例に関するミニシンポジウム
~県が犯罪被害者支援条例(特化条例)を制定する意義と、制定後の運用の課題~

会報「SOPHIA」令和3年11月号より

犯罪被害者支援委員会 委員長
今 枝 隆 久

1 ミニシンポジウム企画の趣旨

 11月1日午後1時から4時、弁護士会館5階ホールにて(オンライン併用)、標記のミニシンポジウムを開催しました(なお、会場では犯罪被害者自助グループ緒あしすの展示も併せて行われました)。

 愛知県では犯罪被害者等支援条例(いわゆる特化条例)の制定作業を進めており、犯罪被害者支援連載シリーズでも特化条例についてお伝えしてきました。今後、特化条例を制定した県がどのような役割を担うか、また、条例制定後の運用をいかに行っていくべきかという点が問題になるものと思われ、標記のミニシンポジウムを企画しました。

2 諸澤英道氏の基調講演

 最初に「被害者への初期支援を担う市町村の役割」というテーマで、諸澤英道氏(常磐大学元学長、世界被害者学会理事)が基調講演を行いました。

 冒頭に講演のポイントとして、①被害者問題は権利の問題である、②自治体は被害者の権利を守るための条例をつくらなければならない、③被害者支援のために必要な費用は国と自治体が応分に負担する、④被害者が助けを求めに行くのではなく、支援者が助けに行くべきである、⑤途切れない支援態勢を作るのは自治体の重要な務めである、という点が示されました。

 その後、各ポイントについて詳細にお話しいただきましたが、特に自治体による被害者支援との関係では、日本の犯罪被害者支援は欧米と比べて遅れており、「支援は生活圏の中で」(Community-based victim support)受けることができて途切れない支援が可能になるのであり、そのためには支援組織が充実したドイツやアメリカのように、日本でも自治体での支援を充実させていく必要があることを強く認識させられました。

3 パネルディスカッション

 次に、特化条例に関するパネルディスカッションが行われました。パネリストとして、基調講演を行った諸澤氏、三重県警から三重県環境生活部くらし・交通安全課に出向し、三重県の特化条例の制定とその後の運用に尽力されている三好由里子氏、2012年に強盗殺人事件で妹を亡くされ、岐阜県の特化条例にも関与している松井克幸氏にご登壇いただき、筆者が進行役として、議論を行いました。

 まず松井氏から、犯罪被害者遺族が事件後に置かれる状況として、事件直後にマスコミが押し掛けるメディアスクラムに遭い、二次被害を受けたこと、また三好氏からは、実際に警察官として、2011年に担当した事件でご遺族が犯人扱いされる、というご経験をお話しいただきました。その上で必要な支援として、松井氏からは被害直後の早期支援、途切れない支援、法律的支援等の必要性のお話があり、また三好氏からは、ご遺族からの手紙を契機に被害者に対してアンケートを行った結果、生活面、経済面、人間関係、心身、様々な面での支援が必要であることがわかり、その上で三重県では特化条例の制定と県による見舞金の制度の創設、さらには市町村での特化条例の制定の働きかけを行った、とのお話がありました。

 こうしたお話を踏まえて議論をした結果、県で特化条例を制定する意義として、県と県警との情報共有がしやすくなること、運用上の課題として市町村で被害者支援を担当する職員には支援の経験が無いことが多く、県がバックアップする体制が必要であることが明らかになりました。三好氏からは、担当職員の異動時期をずらすことで支援のノウハウを引き継いでいる、との有益なご指摘がありました。

4 さいごに

 このように、本ミニシンポジウムでは非常に示唆に富んだ議論がなされました。愛知県でも途切れのない犯罪被害者支援を実現すべく、この議論を踏まえて、さらに市町村での特化条例の制定に向けて活動していきたいと思います。