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8年ぶりの高校生模擬裁判選手権支援

会報「SOPHIA」令和3年8月号より

法教育委員会 委員
山 本 将 貴

1 8月7日(土)、日弁連主催による第14回高校生模擬裁判選手権が初めてオンラインで全国一斉に開催されました(前回までは地区大会があり、実際の法廷を使用)。今回は愛知淑徳高等学校からの応募があり、愛知県からは平成25年以来8年ぶり2度目の参加となり、当会法教育委員の小出麻緒会員、上野慎介会員、私の3名で参加生徒の支援を行いました。


2 事前の支援

 本選手権は生徒が検察側・弁護側の各立場に立って主張・立証活動を行うもので、その目的は、事実の把握や多面的視点による考察、論理的な意見構築、伝達の力を育むことにあります。そのため、弁護士は尋問内容等を教えて「指導」するのでなく、生徒に助言を与えて「支援」を行い、生徒が自力で考えることを重視します。約1か月半で計5回の支援を行い、刑事裁判の流れや準備のやり方・考え方を伝え、うち一回は、長好行検事をお招きし、検察官の視点も取り入れました。生徒は、準備期間が限られる中、今回は少人数だったこと、期末試験の時期、対面でなくZoomでの支援という逆境にも負けず、19時以降も自宅から意欲的に質問を投げかけ、自分たちで議論を準備していきました。


3 模擬裁判選手権当日

 当日は、当会荒川武志会員(日弁連市民のための法教育委員会事務局長)による全体司会の挨拶に導かれ、各校が意気込みを語りました。他校の多くが2年生を交え10人以上が参加する中、淑徳高校は全員が1年生で当日も1名欠席するも「4人で力を合わせて頑張ります」と堂々と語ってくれました。


4 午前の部(対前橋高校)

 午前の試合は、淑徳高校が検察側でした。今回の事案は、収賄における賄賂か純粋な好意(恋愛感情)での便宜供与かの認識が争点であり、多感な高校生は、被告人と証人の恋愛模様に囚われがちでした。しかし淑徳高校は、長検事と話した視点も踏まえ、恋愛に限らない諸要素を拾って、被告人の「認識」という視点で質問ができ、頼もしく感じました。


5 午後の部(対早稲田学院高校)

 午後の試合は弁護側です。反対尋問では、予め準備した原稿が読まれることが多い中、淑徳高校は質問担当でない生徒が主尋問を聴き取り、その場で反対尋問を作成するなど、少数精鋭による機動性が光りました。


6 結果発表

 試合後、法曹三者や有識者の講評を経て、再び荒川会員から各校に金銀銅の賞が発表されました。淑徳高校は銅賞で、残念そうな表情を見せつつも立派にお礼を述べていました。


7 Zoomでの開催について

 Zoomによる支援の際は、下校時間による制限や教室確保の問題がないという利点もあるものの、生徒の疑問が拾いにくいなど、意思疎通の難が大きいと感じました。一方、本番のZoom開催については、接続のほかは大きな問題はなく、むしろ全国の高校が参加できるというメリットが大きいかと思います。


8 おわりに

 本選手権は、関心の強い生徒に、一つの事案を時間をかけて弁護士と検討する中で自力で法的思考を形成してもらい、それを最後まで見届けるというもので、当委員会が主に行ってきた講師派遣やサマースクール等が、短期間で広く法的思考の端緒を伝えるのとは少し異なります。もっとも、どちらも法的思考を伝える法教育の一つの形かと思います。
 事実をもとに評価や意見を導き、相手に理解してもらう説得的な論告弁論を自力で作り上げた生徒を見届け、法的思考が生徒の考え方のひとつとして根付いたと強く感じています。