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子ども裁判所開廷

会報「SOPHIA」令和3年8月号より

法教育委員会 ティーンコートチーム
兒  玉   泰

 ティーンコートの今年の題材は、サッカー部に所属する中学3年生の加害少年が、同じサッカー部の主将である被害少年のスパイクを大事な大会前に盗んでしまったという事案です。被害少年は新品のスパイクを購入してまで試合に強行出場しましたが、履き慣れないスパイクが原因で怪我を負ってしまいました。少年たちは、中高一貫校の高等部へ進学し、サッカー部も続ける予定であるため、長期的な関係性も踏まえどのような処分を下すべきかが問題となりました。
 まず、尋問に備え、弁護人役の生徒は加害少年と、検察官役の生徒は被害少年とそれぞれ打合せを行いました。私は加害少年役として打合せに参加しましたが、事件が起きた経緯や、少年の事件前から現在に至るまでの心情など、丁寧に事情を聴き取ってもらえました。また、加害少年にとって有利となる事情を少しでも多く聴き出そうとする生徒たちの表情は真剣そのものでした。

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 弁護人役との打合せの結果、事件には次のような背景事情があることが明らかになりました。被害少年は、普段の部活からワンマンプレーやラフプレーが目立ち、チームメイトからも苦言を呈されていました。そして、事件直前の練習では、加害少年にスライディングをして怪我を負わせてしまい、怪我を負った加害少年はレギュラーから外されてしまいました。怪我のことをきちんと謝罪せず、むしろ自分を馬鹿にするような発言をした被害少年に腹を立てた加害少年は窃盗に及んだのでした。
 法廷では、それぞれの役割に応じた尋問や主張が行われました。弁護人役からは、被害少年の部活中の態度などを中心に尋問が行われ、事件の原因は被害少年にも存在することがアピールされました。一方、検察官役からは、事件の動機や反省の程度などが尋問され、また、被害少年の態度にも問題があったとはいえ、法に触れる行為をしたことは強く非難されるべきとの主張がされました。生徒たちは、自分たちの主張を補強するためにはどのような尋問をすることが効果的であるかをしっかりと考えて進行しており、非常にレベルの高い議論が行われました。
 裁判官役による評議の結果、加害少年に下された処分内容は、①新しく購入したスパイクの代金を弁償する、②被害少年と加害少年から本件の経緯をサッカー部員に報告の上、部員たちも交えた話し合いの機会を設ける、③被害少年と加害少年の二者間に第三者を交えた話し合いの機会を設けるというものでした。他者を含めた話し合いをすることで、事件の問題点と今後の改善点を見つけてほしいという思いやりのある処分内容でした。
 今年はオンラインでの開催となりましたが、生徒たちの積極的な発言のおかげで、非常に活発な議論を行うことができました。また、生徒たちからは、「楽しかった」、「法曹を目指す気持ちが強くなった」などといった感想が寄せられました。来年度以降も多くの生徒にご参加いただき、今年以上に白熱した議論を期待したいと思います。