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法の日週間記念行事「マイナスからの再出発」開催される!

会報「SOPHIA」 令和6年12月号より

広報委員会 委員 松本健大

1 はじめに

 11月10日(日)、中区役所ホールにて、名古屋市と共催により法の日週間記念行事を開催しました。本年度は、TOKIOの元メンバーで、現在は自身の経験を踏まえて、依存症に関する講演活動を行っている山口達也さんをお招きし、「マイナスからの再出発」のテーマの下、講演とパネルディスカッションを行っていただきました。

2 第1部 山口さんによる講演

 第1部の講演の中では、山口さんがアルコール依存症になった経緯として、ある日突然アルコール依存症になったわけではなく、一般の方と同じように飲酒を始め、少しずつ酒量が増え、気づかないうちにアルコール依存症になっていたこと、そして、山口さんが起こしてしまった飲酒運転に関しても、ブラックアウト状態(過度の飲酒により記憶が飛ぶ状態)でバイクを運転していたため、なぜ自分がバイクを運転していたのか全く分からず、そのことを説明しても、周囲は理解してくれずつらかったこと、飲酒運転を行い、事故を起こしてしまった自分が本当に許せなかったという実体験を、臨場感をもって語ってくださいました。

 また、山口さんは、現在、精神科での治療や自助会への加入を経て、4年間お酒を飲まずに過ごせているとのことでした。周囲からはアルコール依存症が治ったと話をいただくことがあるとのことですが、山口さんとしては、アルコール依存症は治らない病気であり、アルコールを一滴も体内に入れることなくご自身の人生が終わることができて初めて、アルコール依存症を克服したと考えるべきだということでした。依存症の難しさを感じました。

 他にも、アルコール依存症になった理由として、自己肯定感が低く、周囲への羨みや恨みの感情があったためと話されていましたが、仕事面では絶好調の時期であったともお話しされており、自己肯定感を保つことの困難さを実感しました。

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3 第2部 パネルディスカッション

 第2部では、山口さんの他、パネリストとして愛知県精神保健福祉センター所長を務める藤城聡さん、当会のよりそい弁護士制度運営委員会に所属する進藤一樹会員を加え、依存症への向き合い方を中心に、パネルディスカッションが行われました。

 冒頭、藤城さんより、依存症は、当事者の意思や自覚とは切り離された、脳の機能障害であるとの説明があり、これを踏まえ、山口さんより当事者視点で、藤城さんより医学的な視点で、進藤会員より法的な視点でディスカッションが行われました。

 その中で、依存症やそのサポートについて、進藤会員より、生きづらさを抱えている方々に対する法的な支援の必要性や具体的な支援内容を模索しており、精神障害者だけでなく、依存症者にも包括的な支援制度の確立が望まれるという問題提起がありました。これに対し、藤城さんより、現在、愛知県と名古屋市の精神保健福祉センター主催で、依存症者に対しても包括的な支援を行うための新たな制度の構築に向けて会議を開催しているとの説明があり、依存症者に対する社会の理解が進み始めていることを知ることができました。さらに、藤城さんから、自分が依存症かもしれないと感じた場合や周囲の方が感じた場合の対処法として、自分だけで抱え込まずに、早期に医療機関や相談機関、支援団体等に相談をすることが重要であるとのお話もあり、初動の大切さを学びました。そして、最後に、山口さんより、当事者目線で、依存症に関する周囲からの理解がより進み、偏見がなくなり、依存症者でも日常生活に復帰をし、希望を持てる社会になればとの締めくくりのコメントがありました。第2部のディスカッションを通じて、依存症に対する理解とサポートの重要性を改めて感じました。

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4 おわりに

 本講演には1500人を超える方から応募があり、依存症や社会復帰について正しい知識を身に着けたいとのコメントも多く寄せられました。その中で、実際に来場された方々からのアンケート結果において、「依存症への理解が深まった」「講演内容が励みになりました」など、多くの方から高評価をいただくことができました。

 本講演は、外見からはわからない依存症を自覚することの難しさ、依存症に対する偏見が依存症者の病識を遅らせていること、依存症者に対するサポートの重要性、依存症のサポートとして弁護士の関与する場面があることなど、依存症について、多くの市民に理解を深めていただく貴重な機会になったと思います。