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セクハラ・性差別防止研修~アンコンシャスバイアスとその克服を目指して~
会報「SOPHIA」 令和5年11月号より
男女共同参画推進本部 委員 福 井 秀 剛
日時 10月23日 14:00~16:00
場所 Zoomウェビナー
講師 追手門学院大学教授・奈良女子大学名誉教授 三成 美保 氏
- 当会では、3月に第2次男女共同参画推進基本計画を策定し、セクシュアルハラスメントや性別による差別的取扱いの防止を図るため「セクハラ・性差別防止ハンドブック」を改訂しました。今回の研修では、上記ハンドブックにも寄稿いただいた三成美保教授をお招きして、ハラスメントや差別の背景にある性別等に対するアンコンシャスバイアス(以下「UB」)について、ご講義いただきました(中部弁護士会連合会と共催)。
- ハラスメント等は個人の問題に解消するのではなく構造的な問題として捉えるべきことを押さえた上で、ハラスメント等の背景からUBの類型や典型となるSOGIハラスメント、ジェンダー主流化とハラスメントの撤廃という流れで、貴重なお話をいただきました。紙面の都合上、筆者が特に意識すべきと考えた点を中心に報告します。
- ハラスメント等の背景にある様々な要素のうち、「有害な男性性」の要素が重要なものの一つであり、社会的、文化的に賛美される「男らしさ」を持つ層の男性が他の男性層と全女性を支配するという「覇権的男性性」に、支配・被支配の男性のみならず、女性においてもこだわることが「有害な男性性」を生み出しているとのことでした。この覇権的男性性は、異性愛主義と性別二元制に依拠する20世紀型家族に基礎づけられてきたことにより、無意識に社会全体に根付き、ハラスメントの解消を困難にしているとのことでした。
- 次に、UBは、無意識の偏見であり、この「無意識」は「無知」によってもたらされる、無意識を意識化することが必要であるとの説明は、ハラスメント等を防止していく上で有益な指摘でした。また、UBには様々な類型があるが、弁護士においてもマイクロアグレッション(悪気のない軽口)については特に注意が必要です。「子育て中の女性に気の毒だ」、「LGBTQの人に会ったことがない」、「同性婚は反対しないが、子どもがかわいそう」などといった発言が例に挙げられ、多様な女性のあり方を認識できないこと(無意識)がマイクロアグレッションの要因となっていると解説されました。
- UBの典型であるSOGIハラスメントは、社会に根付いている異性愛主義、性別二元制が顕著にさせているが、歴史的に異性愛主義、性別二元制は、日本では大正時代から発展したものであり(世界的にも歴史は浅いものであり)、元来から根付いてきた思想ではないこと、現在の国際的動向としても同性愛が合法とされたり、法的に性別変更を認めたりする地域が欧米を中心に増加していること、法的な性別変更要件がUBやトランスジェンダーへの差別を助長していることから、その改善が重要な課題であることが指摘されました。
- そして、ジェンダー平等とハラスメントの撤廃のためには、UBの意識化が必要不可欠であり、UBの典型例であるSOGIハラスメントへの対応が、すべての性別のあらゆるハラスメント防止に繋がる根本から見直す契機になることをご教示いただきました。
また、無意識の意識化をすることには厳しい葛藤を伴うし、自分の常識、価値観を根底から覆すことになり、安住している生き方を否定することに消極的になりがちであるが、人権擁護の最前線にいる弁護士、弁護士会として、積極的にUBの克服に向けて、無知を知に変える努力を不断にしていくのが責務だと思われることが語られました。