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第71回中部弁護士会連合会定期弁護士大会シンポジウム 犯罪被害者による損害賠償請求の実効性確保~債務名義の取得、債務名義に基づく回収に向けて~

会報「SOPHIA」 令和5年11月号より

犯罪被害者支援委員会 委員 佐 藤 万里奈

1 はじめに

 10月20日、桑名市内の「ホテル花水木」で、第71回中部弁護士会連合会定期弁護士大会シンポジウム「犯罪被害者による損害賠償請求の実効性確保~債務名義の取得、債務名義に基づく回収に向けて~」が開催され、ウェブ参加を含め300名余りが参加しました。

2 第1部 基調報告

 シンポ実行委員会委員の伊藤正朗弁護士(三重)から、「債務名義の取得、債務名義に基づく回収の実情」として、犯罪被害者による損害賠償請求の実情や具体的事例についての報告がありました。

 具体的には、債務名義の取得、債務名義に基づく回収の実情を把握することを目的としてあらかじめ中弁連が行ったアンケートに基づき、特に重大な被害で損害賠償金が支払われていない実情、債務名義を取得しなかった理由や取得したとしても回収できなかった事案の有無等についての分析が報告されました。

 また、債務名義の取得のために印紙代、財産調査、弁護士報酬等の費用がどれだけかかるか、債務名義の取得や回収のための交渉や活動状況等が報告されました。

3 第2部 基調講演

 前明石市長で弁護士である泉房穂氏(兵庫県)が、「犯罪被害者の損害回復に必要な支援とは」をテーマに、明石市の被害者支援に関する取組、全国での犯罪被害者支援条例制定への動き等について講演を行いました。

 明石市では、被害者支援に即した条例制定や運用を積極的に行っています。例えば、債務名義を取得した被害者に、市が立て替えて支払い(上限300万円)、加害者に求償する制度を明石市は導入しており、その他に日常生活支援等の積極的な取組をしています。

 また、近年、犯罪被害者支援に特化した条例(特化条例)制定の動きがあり、8月末時点で45都道府県が制定済みと報告されました。

4 第3部 パネルディスカッション

 パネルディスカッションでは、泉氏、三重朝日町女子中学生殺害事件の犯罪被害者遺族である寺輪悟氏、琉球大学教授でもある弁護士の齋藤実氏(東京)がパネリストとして登壇し、犯罪被害者の損害賠償請求等について意見を交わしました。

 10年前に愛娘を亡くした寺輪氏からは、時効間近の損害賠償債権について加害者からは全く支払いを受けていない、と苦悩を示され、行政が損害賠償を立て替える制度があれば救われるのではないかとおっしゃっていました。また、齋藤氏からは、ノルウェーやスウェーデンにおいて、国が損害の立替をして加害者に求償する制度が充実していることや犯罪被害者庁の紹介がありました。

 泉氏は、最後に、明石市は被害者支援のみならず加害者の更正のための制度も充実していることを強調し、被害者支援と加害者更正は両輪であり、環境を良くするには、どちらの支援も並行して行っていかねばならないことを参加者に訴えかけました。

5 最後に

 午後の大会では「国及び地方公共団体による、犯罪被害者の十分な損害回復及び経済的補償の実現を目指す宣言」が採択されました。宣言では、国よりも早く地方公共団体から、立替払制度を含めた特化条例の制定を求める活動を各単位会が積極的に行うことも宣言されており、私たちも条例制定・制度の実現に向けて頑張っていきたいと思っています。