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難しくなる保護者対応トラブルを考える
~学校としてすべきこと、してはいけないこと

スクールロイヤーと子どもの権利擁護委員の連続勉強会 第3回
難しくなる保護者対応トラブルを考える
~学校としてすべきこと、してはいけないこと

会報「SOPHIA」平成31年2月号より

子どもの権利委員会 副委員長 粕 田 陽 子

日時 1月12日 14:00~16:45
場所 弁護士会館5階ホール
講師 大阪大学大学院 小野田 正利 教授

 今年度連続勉強会の最終回に大阪大学大学院人間科学研究科の小野田正利教授をお呼びした。教授は教育制度学、学校経営学等をご専門にされ、「イチャモン研究会」「それでも親はモンスターじゃない!」等の著書がある。自ら「講演風景はさながら綾小路きみまろ」と称される。なるほど、教授の勉強会は、これまでの豊富な学校支援経験に基づき、学校・教員が直面する保護者対応問題等の深刻な状況を巧みな話術で興味深く聞かせてくれるものであった。以下に紹介する。
 食品等商品の包装裏面を見れば、過剰とも思われる注意書きが並び、誰しもがクレーム・苦情対応から逃げられない「人生の3割はクレーム対応」の時代である。若い教員は「クレーム=恐怖」と考える。しかし、クレームをトラブルに発展させない、難しいトラブルもスモールステップを重ねながら少しずつ小さくしていくことが必要である。保護者対応において問題をこじらせているのは誰か、頑なに壁を作る教員側ではないのかということも考えなければならない。満足水準、期待水準が上がる今日、学校に対する要求も増加している。学校に要求する保護者はモンスターペアレントと称されることもあるが、もともとそれは米国で虐待親を指す言葉であった。要求する保護者を「モンスター」と称してしまえば、保護者を敵とみなし、不必要な対立を自ら招く。学校は、その要求が「正当な要求」か「無理難題」かを見極めて対応しなければならない。「振り上げたその拳だけでなく、その源に何があるのか」が分かればトラブルに発展するか否かのキャスティングボードは握ることができる。教員はどうしても理屈で相手を説得しようとしてしまうが、保護者は我が子への思いで行動することが多いため、ずれが生ずる。100のトラブルのうち、98は拳の源を理解することによって少しずつでも解決に向かう。学校は一挙に解決することを望むが、少しずつ、そして立ち消えも解決としては悪いものではない。解決に向かわない100分の2については、専門家を交えるなど専門的対応をすることが必要である。そのような事例としては、①生きづらさや葛藤を抱える保護者の事案、②違法行為、不当要求が繰り返される事案、③目の前の問題とは異なる別の問題がある事案がある。これらの場合には、事案のアセスメントだけでなく、学校等関係機関の力量のアセスメントも必要であり、エコロジカルマップ(関係図)の作成が有用である。これにより、情報の共有化、「見える化」による問題点や本質の発見、客観的視点の獲得、事態打開のために誰がいつまでに何をすべきかという方針の確認に資する。
 上記①から③については、日本経済新聞社が教授の監修の下制作した「教員のための保護者対応力向上シリーズ」DVDを視聴し、具体的事例に基づき、学校側の取るべき対応を解説していただいた。また、DVDとは別に教授が言及された事例(面談要求の強い保護者に対し、時間制限をしたところ、保護者が学校玄関に靴を残したまま深夜まで行方不明になった事案)からも、教員だけの対応では困難な事案があることがよくわかった。
 「教育は愛とロマン、そして理性」「それぞれに背景があり、出口がある」。教育現場に弁護士が関わる上では、大変に参考になる勉強会であった。