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再審法の改正を!

中部経済新聞2023年3月掲載
再審法の改正を!

先日新聞で再審の記事を読んだのですが、裁判は最高裁で終わりだと習った記憶ですが、違うのですか。
原則は地裁、高裁、最高裁の三回までですが、民事裁判も刑事裁判も法律上一定の要件を定めた上で、再審という制度が認められています。特に刑事裁判では、無実の人を罰するということはあってはならないことなので、重要な制度ですね。
そういえば、昔足利事件という事件で、再審で無罪となったという報道を見た覚えがあります。
平成二年に起きた事件ですね。この事件は、被害者から検出された犯人のものと思われる体液のDNA型が被告人の型と一致したとの鑑定結果が決め手となって有罪が確定したのですが、平成二一年に再審請求審(再審を始めるか否かを決める裁判)で再度DNA鑑定したところ、別人のものであったことが明らかになり、再審で無罪となりました。
鑑定が間違いだったのですか。
平成二年当時はDNA鑑定が捜査に取り入れられて間もない時期で、鑑定の技術的レベルも低かったと言われています。
だとしても、二〇年近くも刑務所に入れられた被告人はたまったものじゃないですね。再審で無罪になった事件は他にもあるのですか。
沢山あります。東京電力のOL殺人事件なども有名な事件ですね。
ネパール人の被告が有罪となった事件ですね。
この事件は平成九年に起きた事件です。平成二四年に再審で無罪となり、被告人は帰国できました。
何が無罪の決め手になったのですか。
この事件では、再審請求審で、被害者の体内に残っていた体液や現場に残された陰毛についてDNA鑑定が行われ、別人のものであることが明らかになって無罪の結果になったと言われています。この他にも、再審でえん罪が明らかになった事件は幾つもあります。
遅ればせながらであったとしても、えん罪が明らかになって良かったですね。
実はそうでもないのです。えん罪が疑われる事件は沢山あるのですが、再審が認められる事件はそのごく一部なのです。
何故ですか。
再審で無罪になった事件の多くは再審請求審で裁判官が検察官に証拠の提出を促し、検察官が提出した証拠を再度調べてえん罪が明らかになっています。しかし、再審請求審で検察官に証拠の提出を促す裁判官ばかりではないのです。裁判官が動いてくれないために、再審請求審で証拠調べが行われないことの方が多いのです。
刑事の裁判では、裁判官は黒っぽい証拠も白っぽい証拠も全部見た上で判決を下しているんじゃないのですか。
残念ながら、そうではありません。検察官は制度的に、有罪を証明するのに必要と思われる証拠しか提出する義務はないのです。
検察官が裁判に出さない証拠については、弁護人は見ることはできないのですか。
裁判員裁判が始まる中で刑事訴訟法が改正され、限られた範囲ではありますが見ることができるようになりました。しかし、それ以前の裁判では見ることはできませんでした。また、再審請求審でも弁護人が直接検察官に請求しても裁判官の勧告がないと検察官は出してくれません。そのため、再審で弁護側は裁判所に証拠の開示を要請しているわけです。
ということは、裁判官に恵まれたら証拠が提出されて無罪になる可能性が出てくるが、恵まれないとえん罪を明らかにできないというわけですか。
実態はその通りです。再審における裁判官格差と言われている所以です。
国の制度なのにそれは不合理ですね。
特に刑事訴訟法改正の前と後でも格差があるわけですからなおさらです。そのため、今日本弁護士連合会では、再審法の改正を働きかけようとしているのです。
どんな点なのですか。
再審に際して、裁判官に証拠の提出を促すように義務づけることや、検察官に証拠をきちんと保管しておくことを義務づけることなどです。もう一点は、再審開始の決定に対し検察官の異議申し立てを制限することです。
それは何故ですか。
再審で無罪となった事件の多くは有罪が確定してから再審で無罪になるまで長い時間がかかっています。足利事件では約二十年かかっています。その原因として指摘されているのは、再審を開始する決定が一旦出ても、検察官が不服申立をするために再審開始が決まるまでに長い時間がかかってしまうからです。
確かに、再審開始決定は再審をするか否かを決めるのだから、白か黒かは再審の中でやればよいことですものね。
その通りです。刑事裁判手続にはまだまだ改善するべき点があると思いますが、とりあえず日本弁護士連合会としては、証拠開示の点と検察官の異議申し立ての制限の二点に絞って改正を働きかけています。皆さんのご理解をお願いしたいと思っています。です。
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