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空き家に不審者が居住?

中部経済新聞2023年1月掲載
空き家に不審者が居住?

先生、不動産のことで相談があるのですが。
どのような相談でしょうか。
私の友人が相続で取得した建物に、現在、氏素性が分からない何者かが住んでいるようなんです。
友人としては、その人物に建物の明渡を求めたいそうなのですが、その場合、友人としては、どのようにすれば良いのでしょうか。
その場合は、建物に住んでいる人(占有者)を特定した上で、その建物占有者に対して建物明渡訴訟を提起するという方法での解決を図ることとなります。
建物占有者の特定は、どのようにすれば良いのですか。
具体的には、現地調査を行い、建物の外観、表札や看板、外部から見える郵便物等についての調査に加えて、居住者に対する質問及び状況によっては近隣の居住者や民生委員、町内会長といった地域の実情をよく知る方々に対する聴取を行う、電気・ガス・水道等のライフラインの契約者を確認するなどの方法が考えられます。
それでも占有者が特定できなかった場合は、どうすれば良いですか。
調査を尽くしても占有者の特定ができなかった場合は、占有者を特定せずに占有移転禁止の仮処分を申し立てるという方法が考えられます。
【占有移転禁止の仮処分】
占有移転禁止の仮処分とは、どういうものですか。
判決を得た後に建物明渡しの強制執行を行う場合、その強制執行は、強制執行時に物件を占有している者に対して行う必要がありますので、訴訟提起時の占有者を相手に建物明渡訴訟を提起して勝訴判決を得たとしても、訴訟中に他者に占有を移転されてしまうと、強制執行ができなくなってしまいます。
占有移転禁止の仮処分は、そのような事態を回避するため、訴訟の相手方とすべき占有者を固定し、その後に他者に占有が移転されても仮処分の執行時点の占有者に対する勝訴判決で強制執行を可能とするための手続です。
その仮処分を申し立てる際に占有者の特定は必要ないのですか。
本来であれば、仮処分申立時点で占有者の特定が必要ですが、不動産については、①多数の者を住まわせて次々と占有を入れ替える、②架空の法人名や屋号で占有して占有者の氏名が分からないようにする、③いわゆる占有屋が占有してその氏名が分からないようにするなど、執行妨害の手段が巧妙化していたこともあり、当該執行妨害に対して的確に対処できるようにすることを目的として、平成15年の法改正によって、民事保全法上、占有者を特定しないでする占有移転禁止の仮処分の制度が創設されました。
したがって、その制度を利用すれば、占有者不特定のままで占有移転禁止の仮処分を申し立てることができます。
【占有者不特定の占有移転禁止の仮処分】
その申立をするには、何か特別なことが必要になるのですか。
占有者不特定のままで占有移転禁止の仮処分を申し立てる際は、①債務者(占有者)が不特定であること、②債務者を特定することを困難とする特別の事情が必要となります。
このうち、「債務者が不特定」の要件に関して、自然人は住所及び氏名で特定され、住所は係争物所在地で特定が可能ですので、「債務者の氏名が不特定」であるという意味になります。なお、姓と名の双方が判明している限りは、それが通称名である場合や読み仮名しか分からない場合であっても、債務者の特定に欠けるところはないと解されています。
では、債務者を特定することを困難とする特別の事情とは、どのようなものを言うのでしょうか。
債務者不特定の占有移転禁止の仮処分は、特定の相手方にのみ裁判の効力が及ぶという裁判の大原則の例外をなす制度ですので、「債務者を特定することを困難とする特別の事情」という要件は厳格に解釈されることとなります。
具体的には、当該不動産の現地調査は不可欠であり、先ほど申し上げた調査を実施し、居住者が不在であったとしても、一度きりで調査を終わらせるのではなく、再度現地に赴いて質問を試みる必要があると考えられます。
そして、これらの調査の結果は、陳述書や報告書などの形式で裁判所に提出することとなります。
仮処分の申立をした後はどうなるのですか。
申立後は、執行官が現地に赴き、係争物である不動産の占有者を特定し、その者の占有を解いて仮処分命令を執行することになり、その占有を解かれた者が仮処分命令の債務者となります。
係争物である不動産の占有を解く際にその占有者を特定することができない場合は、執行不能となり、仮処分を発令できなくなります。
執行官はどのようにして占有者の特定を行うのでしょうか。
執行官は、不動産の占有者を特定する必要があるときは、当該不動産に在る者に対し、当該不動産またはこれに近接する場所において、質問をし、又は文書の提示を求めることができるものとされており、これに対し、不動産を占有する者が正当な理由なく拒んだり虚偽の陳述をしたりした場合は刑事罰が科せられることになっておりますので、執行官は、それらの権限規定や処罰規定を占有者に告知してその住所氏名を聞き出したり、現場の状況観察を行うなどの方法により占有者を特定することになります。
ありがとうございます。とても勉強になりました。占有者特定のための調査が重要だということなので、その旨も含めて、今日お話ししていただいた内容を友人に伝えておきます。
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