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中部経済新聞2022年7月掲載
侮辱罪改正 1年以下の懲役に
中部経済新聞2022年7月掲載
侮辱罪改正 1年以下の懲役に
【侮辱罪の法定刑引上げ】
【「拘禁刑」の創設】
【法律ミニ知識 読み方は同じだけど?】
①「勾留」と「拘留」...勾留は逮捕後に一定期間身体拘束されることを言い、拘留は1日以上30日未満、刑事施設に拘置する刑罰の一種。
②「科料」と「過料」...科料は、1000円以上1万円未満の金銭を支払う刑罰の一種であり、過料は国や公共団体が行政上の罰として出す金銭の支払命令のこと。
先月、侮辱罪の法定刑が引き上げられたって大きなニュースになっていたね。 | |
そうですね。 | |
これでインターネット上の誹謗(ひぼう)中傷が減るといいけどなあ。けど、具体的にこれまでと比べてどう違うんだい。 | |
これまでは、侮辱罪の法定刑は拘留または科料と決まっていましたが、改正法では1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金または拘留若しくは科料となり、懲役刑が科される可能性ができたのです。 | |
そもそも、拘留とか科料っていうのは聞き慣れないね。どういう刑罰なの。 | |
拘留というのは、1日以上30日未満、刑事施設に拘置する刑を言い、科料というのは1000円以上1万円未満の金銭を支払う刑罰を言います。拘留または科料というのは、これまで刑法の中で最も軽い刑罰でした。 | |
ほう。それが最大で1年間刑務所に入る可能性があることになるのか。それは確かに厳しくなったね。 | |
法定刑が引き上げられたことによって、いろいろなことに違いが出てくるのですよ。 | |
例えばどんな。 | |
これまで侮辱罪の場合、教唆犯、つまり他人をそそのかして犯罪を実行させた場合や、幇助犯と言って他人の犯罪の実行を容易にした場合の処罰ができませんでしたが、法定刑が引き上げられたことによってこれが可能になりました。 また、公訴時効が1年から3年に伸びましたので、より長い期間の行為を処罰できることになります。さらには、法定刑が軽いがゆえに逮捕状による逮捕や現行犯逮捕にも一定の制限がありましたが、そういった制限がなくなりました。 | |
より捕まえて処罰しやすくなったというわけか。いつから変わるの。 | |
侮辱罪の改正は今月7日から早速施行されました。ただ、今回の改正に批判がないわけではないのです。 | |
そうなの。 | |
侮辱罪の処罰の対象が広くなりすぎてしまうと、処罰を恐れて正当な批判や意見を言えなくなってしまうという恐れが指摘されているんですね。例えば政治家の言動に対する批判ができないようでは国民の声が政治に届きません。そのため、改正法の施行から3年後に、表現の自由に対する不当な制約になっていないかを外部の有識者を交えて検証することになっています。 | |
確かに、自由にものが言えない社会は怖いものな。 | |
そうですね。侮辱罪というのはもともと「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した」行為を処罰するものであり、処罰の対象が広範になってしまう可能性があるものです。悪質な侮辱行為に対しては厳正な対処が必要ですが、国民の自由を過度に制約したり、国家の刑罰権が濫用されるようなことがあってはいけませんから、慎重に考えなければいけませんね。 | |
処罰がしやすいというのは国民にとっては諸刃の剣にもなるということか。厳しくすればいいというものじゃないんだね。 |
ところで今回改正されたのは侮辱罪の法定刑だけではないのですよ。 | |
他にも変わったことがあるのかい。 | |
大きなところで言うと、「拘禁刑」が創設されたことが挙げられます。 | |
あ、ちらっと聞いたな。それも詳しく教えてよ。 | |
これまで、受刑者の身体の自由を奪う「自由刑」としては、刑事施設に拘置して木工や洋裁、革工などの刑務作業を義務として課す「懲役」と、刑務作業を義務としない「禁錮」というものがメインでした。 しかし、いわゆる再犯者率(検挙された刑法犯のうち再犯者によるものの割合)が年々増加していることや、高齢者の受刑者が増えて刑務作業を義務付けることが適当ではないケースが増えてきたことにより、自由刑のあり方を見直すことになったのです。 | |
懲役刑を科して刑務作業をさせても再犯が減らないということなんだね。 | |
はい。そこで、懲役と禁錮を一元化した「拘禁刑」ができたというわけです。拘禁刑は、刑事施設に拘置されますが、「拘禁刑に処せられた者には、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができる」(改正刑法12条2項、3項)とされています。 | |
具体的にはどういうことをするんだろう。 | |
個々の受刑者の特性に応じて、社会復帰支援のための職業訓練や体調を整えるためのリハビリなどいろいろなプログラムが想定されているようですね。こちらは施行がまだ先なのでこれからさらに詰めていくのだと思います。 | |
そうなんだね。でもそれで悪いことをした人に対する罰になるのかは少し疑問だけどなあ。 | |
確かに、罰は必要なのでしょうが、結局再犯をしてしまえば意味がありません。その人が二度と罪を犯さないためにはどうすべきか、罰するだけでなく更生を重視した改正なのでしょうね。 | |
そうか。これも、厳しくすればいいというものじゃないんだな。再犯が減ればみんながより安心して暮らせるわけだしね。 | |
そうですね。刑罰の種類が変更されるのは、明治40年に現行の刑法が制定されてから初めてのことですから、大きな改正と言えます。 ただ、刑罰も含めた法律というのは社会のルールですから、本来、社会の実情に合わせて常に内容を見直していくべきなのでしょうね。 | |
そうだね。侮辱罪の改正もそうだけど、悪いことをしなければ関係ないということじゃなく、よりよい社会をつくるためには、犯罪の適正な処罰、罪を犯してしまった人の更生というのは国民みんなが考えていくべきことなんだね。改正だけでなく、その後の運用にも意識を向けるようにするよ。 |
①「勾留」と「拘留」...勾留は逮捕後に一定期間身体拘束されることを言い、拘留は1日以上30日未満、刑事施設に拘置する刑罰の一種。
②「科料」と「過料」...科料は、1000円以上1万円未満の金銭を支払う刑罰の一種であり、過料は国や公共団体が行政上の罰として出す金銭の支払命令のこと。
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