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インターネット上での誹謗中傷

中部経済新聞2021年10月掲載
インターネット上での誹謗中傷

従業員が新型コロナウィルスに感染したことを公表した企業が,インターネット上で誹謗中傷された事例があるそうだね。うちも人ごとじゃないし,こういう誹謗中傷にはどうやって対応すればいいのかな。
インターネット上での誹謗中傷に対しては,①投稿等の削除請求,②投稿等の発信者を特定した上で,投稿等をやめるよう請求したり,損害賠償を請求したりすることなどを検討することになります。昨今,インターネット上での誹謗中傷は社会問題として取り上げられ,今年の4月には,特定電機通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限法)の改正もありました。今回は,これについてもご説明しましょう。
では,投稿等を削除させるにはどうすればいいの。
簡易な順に,①ウェブサイトの問合せフォームなどから削除依頼をする方法,②一般社団法人テレコムサービス協会の送信防止措置依頼書の書式で削除依頼をする方法,③任意に削除されなかった場合の削除仮処分,削除請求訴訟などがあります。これらは,匿名の投稿等については,ウェブサイトを管理するコンテンツプロバイダ等に対して行うことが通常です。
【現行制度と問題点】
匿名の投稿者を特定するにはどうすればいいの。
発信者情報の開示請求を行うことになります。プロバイダ責任制限法の改正があったポイントの一つです。まず,現行法では,通信の秘密との関係で発信者情報を開示する要件を満たすかどうかの判断が難しい等の理由で,プロバイダが任意に発信者情報を開示することは少なく,①ウェブサイトを管理するコンテンツプロバイダに対して発信者情報開示仮処分を申し立て,IPアドレス,タイムスタンプ等の開示を受け,その後,②これによって判明した,投稿等に関する通信を媒介したインターネット接続事業者,携帯電話会社等のアクセスプロバイダに対して発信者情報開示請求訴訟を提起し,投稿等をした契約者の住所,氏名等の開示を受ける必要がありました。
投稿者を特定するまでに2回も裁判をしなければならないのか。
これは,誹謗中傷を受けた被害者にとっては大きな負担ですし,通信記録の保存期間が投稿時から3か月ないし6か月程度と短いことから,裁判手続等に時間がかかる間に通信記録が消去されてしまい,投稿者が特定できなくなってしまうこともありました。通信記録の消去を防ぐために消去禁止仮処分を申し立てることもできますが,それもまた負担になってしまいます。
【新たな手続の創設】
それで,どう改正されたのかな。
これまでの裁判手続に加えて,①と②の2回の裁判手続を一つの手続で行うことができる「発信者情報開示命令事件に関する裁判手続」という非訟手続が創設されました。また,この手続の中では,発信者情報開示命令が発令されるまでの間の通信記録の保全のために,裁判所が,コンテンツプロバイダからアクセスプロバイダへの通信記録の提供を命じる「提供命令」や,通信記録等の消去を禁止する「消去禁止命令」を出すことができるとされています。
現在の問題点が解決されるのかな。
改正法は,公布日から1年6月以内に施行されるとされており,新たな裁判手続の運用が始まるのは来年以降になると思われますが,迅速な発信者情報の開示,被害者の負担軽減が実現されることが期待されます。
【開示範囲の拡大】
ほかに改正されることはあるの。
もう一つは,開示請求の対象範囲の拡大です。現行法では,開示請求の対象は,「当該権利の侵害に係る発信者情報」とされており,これは,匿名掲示板等に投稿等をした際の発信者情報を想定したものです。しかし,昨今では,FacebookやTwitterなど,会員アカウントでログインして投稿等を行うSNSが普及し,これらログイン型サービスでは,ログインした際の発信者情報は保存されるものの,投稿等をした際の発信者情報は保存されないことが多いため,このログイン時情報が,「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当して開示請求の対象になるかどうかについて争いがありました。そこで,改正法では,ログイン時情報も「特定発信者情報」として開示請求の対象とされました。
インターネット上での誹謗中傷がスムーズに解決できるようになるといいね。
インターネット上での誹謗中傷に関しては,法務省が,刑法の侮辱罪の法定刑を見直し,懲役刑を導入する方針であるという報道もありました。その是非はともかく,インターネット上での誹謗中傷が大きな社会問題であることは確かです。プロバイダ責任制限法の改正が有効に機能し,インターネット上での誹謗中傷の抑止につながればよいと思います。
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