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中部経済新聞2021年9月掲載 新型コロナと労務管理
今日のご相談ですが、お電話で概要をお聞きしたところでは、御社の支社の事業所で新型コロナウイルスの陽性者が複数人確認されたということでしたね。 | |
はい...クラスターに認定される人数ではなかったのですが、就業中の感染も疑われることから、今後どのように対応すればよいか相談したいと思いまして。 | |
まず状況を確認したいのですが、御社は自動車部品を製造していらっしゃって、当該事業所には工場と事務所があるということでしたよね。 | |
はい、医療関係の施設ではないですし、頻繁な来客があったり、不特定多数の人が出入りしたりというわけでもありません。どこからどう広まったのか不明ですが、どうも、お昼休みに複数人で喋りながら食事をとっていたらしく、それが原因の可能性もあります。マスク着用は徹底していますが複数人で打合せを要することもあり、打合せが原因の可能性もあるのか不安です。 | |
なるほど。 | |
幸い症状が重い者はいませんが、感染して休んでいる間の給料はどうするのか、感染が仕事に関連していた場合に当社がなにか責任を負うことがあるのか教えてください。 |
まず休んでいる間の給料についてのご質問ですが,休業手当についてご説明しますね。労働基準法上、休業手当を支払う義務が生じるのは「使用者の責に帰すべき事由による休業」の場合です。新型コロナウイルスに感染している労働者が、都道府県知事が行う就業制限により休業する場合は、一般的には「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当しないと考えられますので、休業手当を支払う必要はありません。ただ、傷病手当金を受け取れるよう案内するなどの配慮は必要でしょう。 | |
感染者の濃厚接触者にも自宅待機をさせているのですが、その場合はどうなりますか? | |
症状がないなど職務の継続が可能である従業者について使用者の自主的な判断で休業させる場合は、一般的に「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当し、休業手当を支払う必要があると考えられます。濃厚接触者や感染者でなくても、発熱などの症状だけをもって休業させる場合も同様です。 もっとも、保健所や行政の指示で休業する場合には「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当せず、休業手当を支払わなくてもよいと考えられます。 |
仕事中に感染した可能性もありますよね。その場合の補償はしなくてよいのでしょうか。 | |
業務に起因して感染したものであると認められる場合には、労災保険により休業補償が給付されます。また、症状の継続により療養や休業が必要と認められる場合にも、労災の対象になります。 | |
「業務に起因」していたかどうかはどのように判断されるのでしょうか。 | |
厚生労働省が出している指針では、医療従事者以外の者については、「感染経路が特定されたもの」で「感染源が業務に内在していたことが明らかに認められる場合」は労災の対象となり、それ以外の場合には「感染リスクが相対的に高いと考えられる次のような労働環境下での業務に従事していた労働者が感染したときには、業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したものと認められるか否かを、個々の事案に即して適切に判断すること。この際、新型コロナウイルスの潜伏期間内の業務従事状況一般生活状況等を調査した上で、必要に応じて医学専門家の意見も踏まえて判断すること。 (ア)複数(請求人を含む)の感染者が確認された労働環境下での業務(イ)顧客等との近接や接触の機会が多い労働環境下での業務」とされています。 | |
なかなか難しいですね。なにか具体例はないでしょうか。 | |
それも厚生労働省が具体的な認定事例を公開していますので見てみましょうか。医療従事者以外で感染経路が特定されたものとしては、建設業で作業車に同乗していた同僚から感染したと認められた場合が掲載されています。複数の感染が確認された事例でいうと、製造業や建設業の事務室で、他にも感染者が勤務しており、私生活での行動等から一般生活では感染する リスクが非常に低い状況であったことが認められたことから支給決定された事例も掲載されていますね。 | |
そうすると、うちの場合も当てはまる可能性がありますね。 |
ちなみに、業務中の感染だったとして、労災以外に従業員から会社に対し損害賠償の請求などがされる可能性はありますか? | |
その場合は「安全配慮義務」の問題になります。安全配慮義務とは労働契約に付随する義務であり、労働契約法上、使用者が労働者の生命、身体の安全への配慮をすることが義務づけられているものです。具体的な内容は、労働者の職種や労務の内容、労務を提供する場所などの具体的な状況によって異なると考えられています。コロナ禍がはじまって1年以上経ちますので、医療従事者など一般的に感染しやすい職種以外でも、使用者として労働者が感染しないための合理的な感染対策を行うことが安全配慮義務の内容として求められているといえるでしょう。 | |
具体的にはなにをしていればいいんでしょうか。 | |
一般的には、社内でのマスクの着用や手洗い、消毒などの予防策の周知、テレワークの推奨やパーテーションの設置や従業員間の距離の確保、換気の徹底や疑わしい症状がある従業員が休みやすい環境作りなどが挙げられるでしょう。 | |
これらを守っていなければ損害賠償責任が発生するんでしょうか。 | |
いえ、ただちにはなりません。一般的に、使用者が感染対策を怠ったことと感染との因果関係の立証が難しいと考えられるためです。ただ、なんの配慮もせず漫然と職務に従事させていれば、義務違反による慰謝料を請求される可能性もあります。 |
でも、社内でいくら対策をしても、従業員が飲み会に参加するなどして感染し会社に持ち込む場合もありますよね。そういったことを避けるために、今後、従業員の飲み会や会食を禁止してもいいものでしょうか? | |
「飲み会」があくまで勤務時間外に業務と関係なく行われる場合、会社が従業員を拘束することはできません。飲み会の禁止までは法律上難しく、禁止に反して飲み会に参加したことを理由に懲戒処分を行った場合などは違法と判断される可能性が高いです。「自粛の要請」に留めるべきでしょう。 一方で、休憩時間の利用について事業場の規律保持上必要な制限を加えることは休憩の目的を損なわない限り差し支えないとされていますので、例えば社内で複数人が喋りながら昼食をとらないように求めても合理的な制限の範囲といえるでしょう。 むしろ感染リスクの高い会食を控えるように要請することは従業員間での感染の予防にもなりますので、飲み会の自粛要請や休憩時の会食の制限は安全配慮義務との関係では使用者に求められる可能性があります。 |
いろいろお聞きできて少し安心しました。今後また感染者が出てしまわないように対策の強化を検討します。 | |
それはよかったです。今後もコロナ関連で法律的な問題が出てくると思いますのでまた随時ご相談ください。 |
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