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株式相続で紛争を防ぐために 後継者指名など遺言作成を

中部経済新聞2021年8月掲載
株式相続で紛争を防ぐために 後継者指名など遺言作成を

社長お久しぶりです。先日、御社の人事に関する相談で、息子さんにお会いしましたが、社長の後継者となる意識が高まってきているみたいですね。
相談の時は、息子がいろいろとお世話になったみたいでありがとう。息子も経営者としてはまだまだ半人前で、甘いところがあるけど、必死になって勉強してくれているよ。これからも息子がお世話になることも多いと思うけど、よろしくお願いします。
もちろんです。こちらこそよろしくお願いします。御社も事業承継の準備が着々と進んでいるみたいでよかったです。ちなみに、御社に関わる社長ご自身の財産の承継については準備されていますか。例えば、社長が所有されている御社の株式とか。
【遺言による株式の承継の必要性】
いや、特には準備していないよ。妻は当然のことだけど、娘2人も、息子が会社を継ぐことを承知しているから、私が死亡した時も株式の相続で問題は生じないだろうし。
以前私が担当した同族会社の代表者の相続の案件で、後継者と非後継者との間で株式についても紛争が生じたことがあります。すべての株式が譲渡制限株式となっている非公開会社でしたので、取引相場がなく株式の評価額に客観的な数値がありませんでしたので、紛争がより複雑になっていました。
そんなこともあるんだね。仮に、そのような案件で相続の話がまとまらずに後継者が遺産である株式を取得できていなかった場合には、株主の地位はどうなるのかな。
遺産分割で株式の取得者が決まるまでは、株式は準共有となります。仮に社長のご家族に当てはめて、社長が120株を所有されていたと仮定した場合、法定相続分に従って、奥様が60株、お子さん3人が各20株取得することになるのではなく、ご家族全員で株主権を行使することになります。実際には会社法106条に従い、ご家族の中から株主権を行使する人を決定しなければなりません。
相続でもめていたとしたら、その決定でももめるかもしれないね。
はい。その可能性はあると思います。ですので、遺言などで生前対策をしておく必要も生じてくるかと思います。
私が遺言書を作成することでその問題は生じなくなるのかな。
はい。相続に関する法制度が改正されましたので、残したい人に残したいものを残せるようになりました。
でも、遺言書を作成しても遺留分っていうのがあるって聞いたことあるけど。
確かに、兄弟姉妹以外の相続人には、最低限保障される遺産取得分である遺留分があります。社長のご家族の場合には、奥様とお子さん3人には遺留分があります。しかし、法改正によって、遺言などで遺留分を侵害された人は遺留分侵害額について、金銭の支払いを請求できるだけになりました。株式の評価額の問題は残りますが、遺言で株式を息子さんのみに取得させることが可能となりました。ちなみに、遺言書を作成する場合、全ての社長の財産について決める必要はなく、株式のみを対象とした遺言書も作成できます。
そうなんだね。それなら円滑な事業承継に必要な財産についてだけ遺言書を作成することもできるってことだね。早速遺言書の作成を検討してみようかな。
ところで友人の会社も同族会社なんだけど、当社とは違って家族以外の役員や従業員に経営に関する意識を持ってもらうために自社株を所有させているんだよ。ただ、役員や従業員の死亡により、会社とは無関係な相続人に株式が渡らないようにしたいって話していたんだけど、その株式が譲渡制限株式になっていれば問題は生じないよね。株式譲渡の場合と同じように、会社の承認がなければ相続人には移転しないと思うんだけど。
いえ。それは違いますね。相続の場合には、株式は相続人に移転してしまいます。
え、そうなの。
【譲渡制限株式の相続】
はい。株式の相続は、株式譲渡とは評価されないためです。
でも、それだと会社とは無関係な人が株式を所有することになって、株式の譲渡制限をした意味がなくなっちゃうね。何か対策はあるのかな。
株式の相続が生じた場合について、相続人に対して株式を会社に売り渡すことを請求できるよう定款で定めるという手段があります。会社法174条に規定されていますが、要件としては、①その株式が譲渡制限株式であること、そして、②「当会社は、相続その他の一般承継により当会社の株式を取得した者に対し、当該株式を当会社に売り渡すことを請求することができる。」などと定款で定めること、③株式を会社で買い取ることになるので、財源規制に反しないことが必要です。そして、手続きとしては請求することを株主総会決議で決めることが必要です。ただし、この場合も株式評価額の問題は残ります。
株式の評価額の問題は残っちゃうんだね。その都度、評価額の確認や交渉をしなければならなくなると大変だね。それと、株主総会が必要っていうのが面倒だね。そういえば友人は、役員や従業員が退社した場合には、役員や従業員が取得した価格で会社が指定した人に売却するっていう合意書を作成しているらしいんだけど、死亡した場合にも同様な扱いとする合意書を作成したらいいんじゃないかな。
【譲渡制限株式の譲渡の合意の有効性】
それらの合意は退社時の譲渡、死亡時の権利移転については、最高裁の判例や高裁の裁判が複数あります。背景や事実関係はバラバラですが、事案によっては有効となると思います。明確な基準は示されていませんが、以下の2点が重要な要素となっていると思われます。1つ目は、御社のような譲渡制限株式に関する合意であることです。これは、先ほど社長が言われた株式の譲渡制限の理由に関係していると思います。2つ目は、役員や従業員が株式を所有している間、適正な利益配当を行っていることです。役員従業員とはいえ株主ですので、会社に投資することの利益を得られていなければなりません。そして、その利益には、会社からの利益配当と株式を売却する際の売却益があります。しかし、譲渡価格を確定してしまうと売却益は得られなくなりますので、少なくとも配当利益は得られている必要があるという理由からです。
なるほどね。会社にだけ利益がある場合には、合意が無効になることもあるってことだね。
そうですね。個々の事案によって有効性が異なりますので、そのような合意をされるのであれば、一度弁護士に相談された方がいいと思います。
ありがとう。勉強になったよ。友人にも一度弁護士に相談に行くように薦めておくよ。
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