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副業・兼業を認める基準 業務量・労働時間の把握を

中部経済新聞2021年7月掲載
副業・兼業を認める基準 業務量・労働時間の把握を

新入社員から、休日に他社でアルバイトすることを認めて欲しいと懇願されてね、こういう場合どうしたらいいのかな。
従業員の副業や兼業を認めるかどうかの問題ですね。
国は副業・兼業を推進しているみたいだね。
そうですね。政府の働き方改革実行計画では「副業や兼業は、新たな技術の開発、オープンイノべーションや起業の手段、そして第2の人生の準備として有効である」とされており、その普及を図ることが重要であるとしています。また、本年6月18日に閣議決定された成長戦略実行計画においても、「兼業・副業の解禁」など新しい働き方の実現が掲げられています。「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が策定され、モデル就業規則も副業・兼業について許可制から原則として認める内容に改訂もされていますから、社会の流れとして、副業・兼業を認めていく方向性にありますね。
うちの会社は就業規則で、副業・兼業は事前に会社の許可を必要としているんだけど、許可しないとダメなのかな。
労働契約は従業員が会社の指揮監督に服することを内容とする契約ですが、就業時間以外の活動についてまで、一般的な支配に服する義務を生じさせるものではありません。
そのため、労働者が就業時間以外の時間をどのように利用するかについては、基本的に労働者の自由とされています。
そうすると、会社は副業・兼業を絶対に認めないとだめなのかい。
いいえ、そうではありません。原則的に会社は従業員の副業・兼業を制限することはできませんが、①労務提供上の支障が生じる場合、②企業秘密が漏洩する場合、③競業にあたる場合、④会社の名誉・信用を毀損したり、信頼関係を破壊する場合等、会社の利益を害する場合には副業・兼業を禁止又は制限することができるとされています。
①の労務提供上の支障が生じる場合とは,具体的にはどのような場合なのかな。
例えば、退社後、深夜まで副業・兼業をするという場合ですと、従業員が睡眠不足となって、日中の業務中に居眠りをしてしまったり、残業が必要な時でも副業・兼業先に行かなければいけないという理由で残業を断ったりすることが考えられます。
二つの仕事を掛け持ちすれば、労働時間が長くならざるを得ないもんね。長時間労働になってしまうのは従業員の健康面でも心配だな。副業・兼業先での労働時間まで、我が社で管理しないといけないのかい。
そうですね。
労働基本法38条1項は「労働時間は事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と規定しており、「事業場を異にする場合」とは、事業主を異にする場合も含むと解されています。
時間外労働についてはどのように考えたら良いのかな。
ガイドラインによれば、まず、所定労働時間については、契約の先後の順に労働時間を加算します。そして、所定外労働時間については実際の労働時間の先後の順に労働時間を加算して、法定労働時間である8時間を超えて労働させた会社が時間外手当を支払うこととしています。例えば、御社の所定労働時間が5時間、副業・兼業先の所定労働時間が2時間の場合に御社で2時間、副業・兼業先で2時間残業した場合は,5+2+2+2で合計11時間の労働となります。法定労働時間である8時間を3時間オーバーしていますから、この3時間分の割増賃金をどちらの会社が負担するのか考えてみましょう。所定労働時間は、契約を先にした御社の5時間、副業・兼業先の2時間の順に加算して7時間となります。この時点では法定外労働時間は発生していません。次に所定外労働時間については、実際の労働時間の先後の順に加算しますから御社で勤務した後に副業・兼業先に行く場合を考えると、御社で残業した2時間の内の1時間は法定時間内のため割増賃金とはなりませんが、残りの1時間と、副業・兼業先での残業2時間は法定時間外の労働として割増賃金となります。
副業・兼業が無ければ、うちの会社で残業3時間までは法定労働時間内で割増賃金は無かったのに。思ったより影響が大きそうだな。
これが、副業・兼業先で勤務した後に御社に出勤する場合ですと、副業・兼業先の残業2時間の内の1時間は法定時間内のため割増賃金とはなりませんが、残りの1時間と、御社での残業2時間が法定時間外の労働として割増賃金となります。
1日のうち、どちらで先に勤務するかということも重要なんだね。
そうですね。副業・兼業先での労働時間や勤務の時間帯を確認して検討する必要がありますね。
副業・兼業先での労働も合わせて過重労働となってしまった従業員がうつ病になった場合の安全配慮義務についてはどう考えたらいいのかな。
この点について、現時点では明確な司法判断は示されていませんが、ガイドラインによれば、会社は、副業・兼業先も含めた従業員の業務量や時間を把握して、適切な措置を講ずることが求められていると思われます。就業規則で副業・兼業先での働き方について報告する義務を定めたり、状況次第で事後的に副業・兼業を禁止することができるように定めておくのがよいと思います。
副業・兼業を認めると、従業員は収入が増えて良いかもしれないけど、会社にとっては負担ばかりで良いことはなさそうだな。
そんなことはないですよ。副業・兼業によって従業員が社内では得られない知識、経験、人脈を取得すれば、事業機会の拡大につながると言われています。これからの社会で優秀な人材を確保するためには副業・兼業を認めることが必要となっていくものと考えられますから、就業規則を整備して準備していきましょう。
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