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自然災害債務整理ガイドライン 〜被災時、個人の債務を減免〜

中部経済新聞2020年9月掲載
自然災害債務整理ガイドライン 〜被災時、個人の債務を減免〜

最近、自然災害が多いよね。息子夫婦が最近家を買って住みはじめた地域も、過去に大きな水害が起きたことがあるらしくて。今は台風も多い時期だし、万一、家が流失するようなことがあったらと不安になるよ。
たとえ家が流失しても、住宅ローンは残るだろう?他に大きな債務はないけれど、返しはじめたばかりで3千万円以上残ってる。全壊した家のローンを支払いながら、新しい住まいの家賃等も支払うのでは、生活が立ちゆかないし...こんな時は、破産するしかないのかな。
家が流失するような大きな自然災害であれば、「自然災害債務整理ガイドライン」を利用した債務整理ができる可能性が高いです。災害救助法の適用を受けた自然災害の影響を受けた個人の債務者は、このガイドラインを利用した債務整理を行えます。最近では、令和2年7月3日からの大雨による災害も、9県98市町村が災害救助法の適用を受け、東海地方では高山市、中津川市、恵那市、飛騨市、郡上市、下呂市が対象になりました。
自然災害債務整理ガイドライン? なんだいそれは?
自然災害の影響によって住宅ローンや事業性ローン等の支払いが困難になった個人の債務者が、破産手続等の法的倒産手続によらず、特定調停手続を活用した債務の減免を公正かつ迅速に行い、被災した債務者の生活や事業の再建を支援すること等を目的として作成されたガイドラインです。自然災害債務整理ガイドラインは法律ではなく、金融機関等団体、日本弁護士連合会、商工団体等の関係者などの関係者らが学識経験者などとも協議を重ねて策定したものです。ですので、ガイドラインの対象となる債権者は、金融機関などの債権者です。
個人的に貸してくれた友人なんかは、対象の債権者にならないわけだね。破産する場合と比べて、何かメリットはあるのかな。
①信用情報機関に報告、登録されない、②弁護士等の登録支援専門家の支援を無料で受けられる、③破産の場合よりも、手元に残すことができる資産が多い(被災状況、生活状況などの個別事情により、財産の一部、具体的には最大500万円程度の現預金をローンの支払いに充てず手元に残すことができます。破産の場合は原則として99万円までです)、④ローンに個人の保証人がついていた場合に、原則として保証債務の履行を求められない、といった点が破産と比較してのメリットです。
すごいな。ブラックリストに載らず、手元に現預金が残せるなら、新たな住宅ローンを組むこともできるね。無償で保証人になった親族も保証債務を被って財産を失わなくても済むんだね。自然災害債務整理ガイドラインは、災害救助法の適用を受けた自然災害で被災した債務者なら、誰でも利用できるの?
災害発生前に対象債権者に対する期限の利益喪失事由に該当する行為がないこと(ただし、債権者の同意が得られれば利用可能)、財産や負債の状況を対象債権者に適正に開示すること等の要件はあります。
なるほど。災害の前からの支払いの遅れは、災害とは関係ないもんね。息子夫婦は、住宅ローンを遅れずに支払っているから、万一の時でも利用できるかな。じゃあ、もし、息子が被災したとして、自然災害債務整理ガイドラインを利用した債務整理がしたいと思ったら、具体的にどうすればいいの?
まず、住宅ローンを借りている金融機関(元金総額で最大の債権を有する対象債権者)に自然災害債務整理ガイドラインに基づく手続に着手したいと申し出てください。
金融機関は、申し出た債務者がガイドラインの要件を満たす限り、申出を拒絶してはならず、手続の着手についての同意書面を債務者に交付することになっています。この同意書面を付して、弁護士会などの士業団体を通じて、全国銀行協会に対し「登録支援専門家」を委嘱するように依頼します。
息子が被災した時、貴方に登録支援専門家になってもらうことはできないの?
はい。「登録支援専門家」は、債権者又は債務者の代理人ではなく、利害関係のない中立公正な立場で手続きを支援する弁護士らの専門家です。そのため、債務者が自分で委嘱を受ける弁護士を選ぶことはできません。
無料で代理人になって貰える、というのとは違うんだね。
そうです。必要書類の提出・作成や、調停条項案についての対象債権者との協議について支援を受けることができます。
手続中は債務の支払いはどうなるの?
登録支援専門家の委嘱後、全ての対象債権者に債務整理開始の申出書が提出されてから、債務整理が成立するまで、債務の返済や督促は「一時停止」になります。
支払いを止めた上で、専門家の支援を無償で受けながら書類の作成や提出ができるのなら、生活再建しながら手続を進められそうだね。自然災害債務整理ガイドライン、万一の時のために、よく覚えておくよ。
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